乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 彼女は召喚当初は沈んでいたものの、元の性格は明るいようですぐによく笑い、話してくれるようになった。異世界の家族から引き離して、こちらの都合で呼び寄せたという負い目もあったが、彼女の笑顔に何度も救われた。

 あれはモンスターの目撃情報を元に、次の街へと移動の道中だったと思う。馬車に乗っており最中に、聖女が不意に悪戯を思い付いたように話し始めた。

「思ってたんだけど、これって乙女ゲームみたいですよね!」

 何を言い出したのか判らず、私やカイルは聖女の言葉の続きを促した。

「乙女ゲーム。元の世界にあったんです。あっゲームって判りますか?」

 首を振る。ゲームとは遊戯の事だろうが、彼女が言うのはチェスなどの盤上遊戯とはまた違うものなのだろう。

「うーん、何ていえばいいのかな…とにかく冒険を通して恋に落ちるんですよ。でも攻略キャラクターは何人も居て、ヒロインの行動でキャラクターの好感度が変わっていくんです。

 それで冒険が終わった時に……私たちの場合だと、魔王を討伐できたらかな? 最後に一番好感度が高いキャラクターと最後に結ばれるみたいな。誰かと最後に付き合うのが目的のゲームなんです」

 彼女の説明する事の全てを理解できた訳ではないが、どうやら体験型の芝居のようなもののようだ。

「逆ハーレムエンドっていうのもあるんですよね」

「逆ハーレム?」

「そう、ヒロインが攻略キャラクター全員に好かれて、全員と結ばれるんです」

「節操がないな」

 思わず非難めいた声が出た。別に彼女がそうしたいと言った訳でもないのに。

「でしょう? だから私あんまり好きじゃないんだよね。……っと、好きじゃないんですよね」

 言い直した聖女に少し笑う。彼女はどうやら敬語が得意じゃないらしく、よく言い直している。それも面白いのだが、いちいち敬語を使われるのは親しみに欠けると常々思っていた。

「敬語は使わなくてもいいぞ」

「ええ? アーネスト様相手に敬語じゃないとか、不敬罪で処罰されません?」

「聖女がか?」

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