乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます

カナエの記憶

カナエの記憶

 聖女召喚されたカナエには、前世の記憶があった。記憶があると言っても、様々なことがとぎれとぎれにしか思い出せない。

 西暦何年に生きていたのかは思い出せないが、スマホがあって、インターネットがあり、乙女ゲームがある時代の女子大生だった。

 髪を染めるのが嫌で黒髪を通していた以外は、ごく普通の女の子だった彼女は、大学に向かう玄関先で、突如として光に包まれ、異世界アルデウムへと召喚された。

 途切れ途切れの記憶の中でも、多くの記憶がこのアルデウムの世界でのものだ。

 突然の召喚に戸惑った彼女だったが、持前の明るさと一緒に旅する仲間に支えられて、魔王討伐の旅を続けることができた。

 彼女が元の世界の乙女ゲームの話をした時に、ミヒャエルが興味を示したのは彼女にとって意外だった。ぶっきらぼうな口調のミヒャエルは、フランクに話してくれる他の仲間に比べたら少しとっつきづらかったからだ。敬語こそ外せなかったが、乙女ゲームごっこを通して、ミヒャエルと彼女はかなり親密になった。

 ただ彼女が困っていたのは、ミヒャエルが乙女ゲームごっこをしている時は、スキンシップ過剰になることだ。普段は硬い口調なのに、乙女ゲームごっこになると、途端に信じられないくらい甘く、優しく、とろけるような眼差しで彼女を見つめながら触れてくる。

 それは恋愛免疫のない彼女には強すぎる刺激だった。普段通りのミヒャエルが触れてきたとしても緊張しただろうが、演技しているミヒャエルならなおさらだ。そのせいで、ミヒャエルが彼女に触れる時、彼女は反射的に飛びのいて逃げる癖ができてしまった。

 最初に呼び名を『アーネスト様』と決めてしまって以降は、彼女はどんなに親しくなっても気恥ずかしくてミヒャエルと呼ぶことができなかったが、それを度々カイルにはからかわれていた。

「恋人なら、『ミカ』とか『ミヒャエル』とかって呼び捨てするものじゃないの?」

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