乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 魔王の触手が彼女の背後に迫ったのを察知したミヒャエルは、とっさに彼女を庇った。触手はミヒャエルの身体を深々と刺し貫いてから抜ける。彼女を庇っての負傷は、旅の道中でもあったことだったが、今回の傷はどうみても致命傷だ。

「いや、やだ、ミカ、ミカ。なんで、死なないで」

「……ぶじ、か……?」

 彼女はミヒャエルに縋って懸命に祈る。彼女の背中には白い翼が現れ、ミヒャエルを癒すと同時に、魔王と戦い続けている他の仲間たちにも力を送り続ける。強い想いの祈りは光を増し、魔王の攻撃が怯んだ。

「ミカ、生きて……!」

 彼女がそう叫んだ時、目を開けられないほどの光が辺り一面を包み込む。

 光が治まった時、ミヒャエルが目を覚ますと、致命傷だった傷は塞がっており、服だけに穴が開いている。魔王は、と彼が立ち上がった時、魔王は塵となってサラサラと消えていくところだった。

 彼女は、祈りによってミヒャエルを救い、魔王をも倒したのだ。

 けれど全てがうまくいった訳ではない。

「ミカ、よか、った……」

 呟いて、彼女は血を吐いた。

「――っ!」

 ミヒャエルが彼女の名を呼んだが、彼女にはそれに答えて笑いかけることができなかった。

 魔王が最期に伸ばした触手が彼女の胸を貫いていた。その触手も塵となって消えていったが、彼女の胸の穴は消えない。

 笑ってくれるといいなあ、とか、治って良かったとか、そんなことをぼんやりと彼女は考えていた。

 泣きながら彼女の身体を抱えるミヒャエルの姿。

 それがカナエの前世で最期に見た光景だった。
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