乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 闇の世界に、小さく光が灯る。ポツポツと現れた光はやがて広がり、辺りを包み込む。暖かい光だ。地獄へ向かうと思っていたが、どうやら天国に向かうらしい。ありがたいことだ。

 視界一杯に光が満ち、私は。

「ミカ……起きて、ミカ…」

 うっすらと開けた視界に映ったのは、私の手を握って伏す黒髪の女性の姿だった。やがて光が彼女の身体に収まっていき、私はベッドの上で寝かされていたのだと知れる。

 黒髪の彼女が、祈りで私を死の淵から引っ張りあげてくれたらしい。

「カ、ナエ……?」

「ミカ!?」

 口から、彼女の名前が知らずのうちに漏れる。ぱっとあげた顔と目が合って、私は、息を飲んだ。
 ここは『ゲーム』になる前の世界なのだろうか。いや、そんな筈はない。でも、目の前にいるのは、確かに、一番最初に召喚された彼女だ。

「良かった……! 急に倒れるから……ミカが……」

 いや、違う。

 ……今、目の前にいるのは、一番最後に召喚されたカナエだ。そして、一番最初に召喚された彼女と同じ、カナエだ。

 どうして忘れていたんだろう。記憶を取り戻してさえ、何故彼女と同一だと気づかなかったんだろう。

「……すまなかった」

 彼女の手を握り返すと、カナエは泣きながら笑った。

「へへ。起きたから、もういいですよ」

 よく見れば、彼女はまだ婚礼衣装をまとったままだった。

 私はカナエとの10周目のエンディングの後に倒れ、そんなに時間が経っていない、ということらしい。

「けど、11周目なかなか始まりませんね。いつもなら、もうとっくに始まってるのに」

 泣いていた目をこすってから、カナエは首を傾げた。

 そうだ、今目の前にいるカナエは『ゲーム』としてこの世界を周回していたのだ。だからゲームが続かないことを不思議に思っても、仕方ない。

「ゲームは、もう始まらない」

「え?」

「この世界をゲームにしていた魔法はもうなくなったんだ」

 そう告げれば、カナエはぽかんとした顔をして、一拍置いてから叫んだ。

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