乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 協力の内容は、高位の神官を我が国に一時招き、聖女カナエを元の世界へ戻す魔法陣を組むための魔力を借りるというものだ。

 カナエは、確かに私のプロポーズを受け入れてくれはしたが、それは彼女がこの世界をゲームだと思っていたからこそだ。ゲームが崩壊した直後にプロポーズはしたが、その後、中断された婚礼の続きは行っていない。

 私が元の世界へ帰りたいかどうか聞いた時、カナエはきょとんとした顔でこう答えた。

『え、戻れるなら戻りたいよ?』

 だから、私は婚約を白紙に戻したのだ。もしかしたらゲームのシステムがなくなった直後のプロポーズでさえ、彼女の中ではゲームの延長だと思われていた可能性すらある。

 だから私は、各国に帰還の魔法陣の準備協力を仰ぐことにした。魔王との戦いの痕に対する復興事業も多々あり、他国への協力要請が遅れ、半年も過ぎてしまったが。

 この書面にサインをして送り返せば、次は各国の神官たちがこの国に来てくれることだろう。

 本音を言えば、気が狂うほど求め続けた彼女を元の世界に戻すのは、身を裂くほど苦しい。けれど、それは私の都合だ。彼女にとってここは異世界で、帰るべき場所は、他にあるのだ。

 カナエはちゃっかり自分の紅茶も淹れて、私の執務机の前にある応接ソファでそれを飲んでいる。私も冷める前にいただこう。

「それで、私が日本に帰ったら、その後はいつごろ迎えに来てくれるの?」

 カップを、とり落としそうになった。

「……どういうことだ」

「流石にそう何度も帰れないだろうから、お父さんお母さん、あと友達にちゃんと話をしておきたいし、学校もやめないといけないだろうし……あれ、魔王討伐10周したけど、あっちの時間ってどのくらい経ってるんだろう?」

 ブツブツと話すカナエに、理解が追いつかない。信じられないことだが。

「こちらに、帰ってくるつもりなのか?」

「うん? ……えっ違うの!?」

 驚愕に目を見開いて、カナエが絶叫する。驚いているのは、私の方だというのに。

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