乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
「当たり前だろう。聖女召喚など、そう何度も行えるものではない。それに、もう一度行ったとして、カナエをもう一度呼べる確証もない。別の人間を召喚してしまう可能性があるんだ」

「えっそうなの!? えっでもそれじゃあ、ミカの魔法でちゃ~っと時間戻して、私が戻ってくるまで召喚やり直すとかできないの? 魔力ってそのうち回復するんでしょう? だめ!?」

 平然と時間操作を言ってくれる。カナエにはゲーム化した世界について、全て説明したのだが、この期に及んで私が時の魔法を使えると思っているのか。楽天的にも程がある。

 まあ、そこに惚れたのかもしれないが。

「だめに決まっているだろう。私はもう二度と時の魔法は使わん」

「じゃあどうやってこっちに戻ってきたらいいの?」

 問われて言葉に詰まる。

 そもそも、前提がおかしいのだ。なぜ彼女は、こちらに戻ってくるつもりなのか。

「……うそでしょ? こっちに戻る方法がないなら、ミカにもう会えなくなっちゃうじゃん……もしかして私、ミカに捨てられるってこと?」

 ガタン、と立ち上がって、カナエがわなわなと震え出す。

「元居た世界に、戻りたいんだろう?」

「そりゃそうだよ! でも、ミカがいなきゃ意味がない! 私に、プロポーズしてくれたんじゃなかったの?」

「それは…」

 私も同じだった。カナエがいなければ意味がない。

 だからこそ、私は乙女ゲームの世界に変えるという過ちを犯したのだ。

「ミカのいない世界になんて戻れないよ!」

「でも、お前はゲームだから私のプロポーズに答えたんだと……」

「ミカは馬鹿なの!? ここが乙女ゲームでも、現実でもどっちでもいいよ! でも私の好きな人は、私のヒーローはミカだけだよ! 私がずっとミカのルートだけ来てたの、なんだと思ってたの? ミカが大好きだからだよ! 何で、なんで一生会えないこと判ってて、私を日本に戻す準備してるの?」

 一気に叫んだ後に、カナエはぼろぼろと大粒の涙をこぼす。

「カナエ」

< 38 / 66 >

この作品をシェア

pagetop