乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 どうやら後者だったらしい。カイルは苦笑いしてかぶりを振る。

「そんなに言うなら連れてくけどさ、ガッカリしても知らないよ」

「がっかりなんてしないよ」

 機嫌よくそう返事して、カナエはカイルの後をついて歩いた。

 カイルは城の中でも、かなり奥まった一角にあった部屋にカナエを案内した。そこは日当たりが悪く、じめじめとしている上、周囲の装飾も質素だ。まるで下級の使用人の詰所のような風情である。

 ドアを開けると、部屋の中には質素なベッドとサイドテーブルが一つずつ置いてあるだけだった。それ以外の生活に必要な調度品類は置いていない。通常の王侯貴族の部屋には絵画や壺等、部屋を飾るためだけに用意された装飾品が置いてあるはずだが、この部屋には絨毯すら敷いてなかった。

 未婚の男女が二人きりで部屋に入る時の儀礼にならって、カイルはドアを開けたままにしておく。

「えっ何でこんなに物がないの?」

「俺は王城よりも街で過ごしてたことの方が多いからな」

「どうして?」

 無遠慮な追及の言葉にカイルは内心苦笑うが、当然それは表には出さない。

 王城で過ごす時間が短かろうと、王子の部屋がこんなに質素であって良い訳がないのだが、果たしてカナエがそれを理解しているかどうか。

「……どうしてなんだろうな」

「ちゃんと言ってやればよかろう。自分は王城にいることは不相応なのだと」

 開いていたドアから響いた声に驚いて、カナエはドアを振り返る。

 そこに居たのはカイルと同じ明るいブラウンの髪に、カイルと違う翠の瞳と白い肌の青年だった。そしてその侍従と思して数名の騎士もいる。

「……兄上」

「父上と謁見したと聞いてな。わざわざ顔を見に来てやったというのに、挨拶もなしか」

 カイルが黙ったのを見て、カイルの兄はふん、と息を吐く。

「流石は遊び女から生まれた子供は教育がなっておらぬな」

「何を……」

 カナエが踏み出して反論しようとしたのを、カイルが彼女の手を掴んで制止する。カナエはカイルの顔をうかがいみたが、カイルは硬く口を結んで軽く首を振った。反論するなと言う意味だ。
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