乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 ゲームの中ではそうだよね、とはカナエは返せない。

「あの王子様ごっこの奴は、恋愛的な意味ってより、ファンとして推しを称えるみたいな気持ちで……好き好き言ってたな」

「推し?」

「神様的な……主よ、慈悲をありがとうございます的な……」

 つい日本での言葉が出てしまい、判るようにカナエは言い直す。

「ふうん? なんかそれ、『偶像としては好きだけど、男性としては殿下のこと好きじゃない』って言ってるように聞こえるよ」

「へ?」

 素っ頓狂な声をあげたカナエはそのまま固まる。

「カナエ様、新しいお茶を淹れて参りますね」

 話が長くなりそうだと察した侍女が、次の紅茶を淹れるためにワゴンを押してドアを開ける。

「殿下」

 部屋の外には、ミヒャエルが居た。

「失礼致しました。どうぞ、殿下」

「……いや、通りすがっただけだ。気にしないでくれ」

 お辞儀をしてミヒャエルが入れるように道をあけた侍女に対して、ミヒャエルはそのまま去ってしまう。

「ねえ、あれ聞かれてない? さっきのやつ」

「うそっ、私ちょっと行ってくる!」

 音を立ててカナエは立ち上がり、あっという間に部屋から出て行ってしまった。

「……あの人ほんとに妃教育終わったの?」

 どたばたという走る音を聞いてアレンは嘆息した。

「主のいない部屋に居座るのもなんだから、僕帰るね。聖女様によろしく伝えといて」

「かしこまりました、アレン様」

 呆れた様子でアレンが出ていくのを、侍女は深くお辞儀して見送った。
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