乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
アレンの背中にすがりついていた聖女が顔を上げて叫び、そして固まった。
「あんたこそ、大丈夫? 今の祈り、かなり魔力消耗したんじゃないの? 祈りの大盤振る舞いさせて悪かったよ。ああ、顔に血がついてる。……何で黙ってんの?」
アレンが聖女の頬の血を指で拭うが、聖女は無反応である。普段ならこういうスキンシップをするとき、聖女は相手が誰であれ赤面して取り乱す。恋愛感情を持っておらずとも、スキンシップが恥ずかしいいのはうぶだからだろうとはアレンは思っている。しかし、無反応というのもおかしな話だ。
「あ、あの……」
やや震えた指で、聖女はアレンの顔を指指す。
「うん?」
「あ、あなた誰……アレン、なの?」
微妙にアレンから身を引きながら、聖女が言う。その言葉で、ようやくアレンは気づいた。
めくらましのローブが、ワイバーンによって引き裂かれ、その効果が消えてしまっていることに。
「あっ」
慌ててアレンは顔を手で覆って隠したが、それだけでは隠しようのない眩しい銀髪が露わになっている。今まで目くらましで見えていた赤髪は消えてしまっているのだから、誤魔化しようがない。
「アレン、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
カイルが走り寄ってきたが、アレンは忌々し気に答えた。
「えっカイル、これどういうこと?」
「あ~……聖女様は知らなかったんだっけ……?」
カイルとアレンを見比べて戸惑う聖女に、カイルは目を泳がせる。
「え、っと、アレンの素顔を、隠してたってこと?」
おずおずと尋ねる聖女に、アレンはため息を吐いた。
「そういうこと。あー……もうこれ直せないな」
立ち上がり、ローブを確認してアレンはまた嘆息する。呪いの掛かった紋が裂けていて、修復は無理だろう。これではもう目隠しのローブは使えない。
「大事なものだったんだよね、ご、ごめん、アレンごめん」
目に涙を溜めて謝る聖女に、アレンはふん、と鼻息を吐く。
「あんたが怪我するよりマシでしょ」
「……助けてくれて、ありがと」