完璧な嘘、本当の愛

執着愛への豹変

遠島の秘密の告白が終わった後、部屋は沈黙に包まれていた。
長い沈黙。春菜は、遠島の言葉を反芻している。親に捨てられたこと。シングルマザーとの経験。独学でデザインを学んだこと。業界に入る時の曖昧な対応。全てが、春菜の心に落ちていく。
遠島は、春菜の反応を待つ。その待ち方が、緊張に満ちていた。
春菜は、遠島の手を握った。
「聞いてください」と春菜は言った。その声は、落ち着いていた。「私も完璧なふりをしてました。親の期待に応えるために、本当の自分を隠してきました」。
遠島は春菜を見つめた。
「私は、親が望む『完璧な娘』でいることが、私の人生だと思ってました。学校、職業、恋愛、結婚。全部、親が決めました。その中で、本当の私は何なのか、私は知りませんでした」。
春菜の声が、微かに震えている。
「あなたの秘密を知った時、私は怖かった。でも、同時に気づいたんです。あなたも、私も、何かを隠しながら生きている。あなたは過去を。私は本当の気持ちを。その隠れた部分が、私たちを結びつけてるんじゃないか」。
遠島は、何も言わない。ただ、春菜の言葉を聞く。
「だから」と春菜は続ける。「あなたの全てを受け入れたい。秘密も、過去も、全部。それは、人生を汚すことじゃなくて、むしろ、私たちが本当に一緒にいるってことだと思うんです」。
涙が、春菜の頬を伝う。
「一緒に、本当の人生を歩みたい。完璧さを必要としない人生を。親の期待や社会的な枠ではなく、私たちが決めた人生を」。
春菜は、遠島の目を見つめた。
「あなたを選びます。ずっと選びます。あなたの全部を。」
遠島の目に、涙が溜まった。
「春菜……」と遠島が呟く。その声は、初めて、本当の感情を表していた。
「本当に……」と遠島は言った。その先の言葉が、出てこない。
春菜は、遠島を抱きしめた。彼の胸に顔を埋める。彼の心臓の鼓動を感じる。その鼓動が、急速に高鳴っていく。
「二度と離さない」と春菜は言った。それは、誓いだった。
遠島は、春菜をより強く抱きしめた。その力が、彼が感じている深い感情を物語っていた。
「君が……本当に、そう言ってくれるのか」と遠島は確認するように言った。
「はい」と春菜は答える。「あなたと一緒に、私たちの人生を作っていきたい」。
その言葉が、遠島の心を解き放った。
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