メリーでハッピーなトゥルーエンドを
♥第2章 バッドエンドは誰の罠?
「あのさ、今日一緒に帰ろう」
そんな郁実の言葉ではっと我に返った。
闇の中を延々落下していたわたしの意識が底につく。
「……っ」
「花菜?」
気づいたら、思わずその腕を掴んでいた。
郁実が線路へ、止まらない電車の前へ消える瞬間の記憶が頭の中で明滅する。
しがみつくように強く握るわたしの手は、冷たく震えていた。
「あ……ごめん、つい」
落ちていく姿が、離れていく感触が、濃く焼きついて感情を揺さぶってくる。
あの騒々しい電車の音がいまも耳の中で鳴り続けていた。
「どうかしたの? 顔色よくないけど」
「う、ううん、気にしないで。またあとで!」
戸惑い、憂うような郁実に背を向け、教室へと向かう。
胸の前で震えの止まらない両手を握り締めた。
(あの子────)
“昨日”、背後にいた女子生徒。
彼女は柊先輩とよく一緒にいる子だった。
強い衝撃を受けた背中が疼いたような気がして、ぞくりと粟立つ。
(まさか、あの子に押された……?)
昼休みになると、ひとり屋上へ出た。
じっと砂時計を眺める。
既に2輪の薔薇が散ってしまった。
それぞれがく片の部分は残っているものの、枯れたように黒ずんでいる。
(あっけない……)
そのとき、ふっと唐突に空気の色が変わった。
振り向くと、そこに現れた御影が歩み寄ってくる。
「どうだ、何か気づいたか?」
砂時計を持つ手に思わず力が込もった。
「うーん。“変化”って言うより、逆に変わらなかったことなんだけど……」
「ああ」
「郁実は毎回、わたしを庇って死んでる」
トラックが突っ込んできたときも、工事現場の鉄骨が降ってきたときも、線路に突き落とされたときも。
口にした言葉が、思いのほか冷静な響きをしていたことに自分で驚く。
受け入れたわけでは到底ないけれど。
彼の死に際を思い出すたび、無力さを嘆いた。
そのうち気づいてしまったのだ。
わたしを庇ったせいで、郁実が代わりに命を落としているということに。
死因はちがえど、その点だけは共通していた。
「これって偶然……? そういう運命なの? それとも、本当は……死ぬのはわたしだった、とか」