メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「花、菜……」
わたしを認め、彼はおののいたように手を離す。
だけど、玲ちゃんは倒れたまま動かない。
苦しむどころか、息をする気配も起き上がる気配もまったくなかった。
“昨日”と同じく、もうこと切れているみたい。
「な、何……してるの?」
喉に張りついた声を押し出し、おぼつかない足取りでふたりに歩み寄っていく。
意味が分からない。
何が起きているのか、全然理解が追いつかない。
「どういうこと……?」
郁実が玲ちゃんを殺した?
どうして、郁実が?
「何で? ねぇ、自分が何したか分かってる?」
「……ちがう。花菜、待って」
「ちがわない、郁実が……絞めてたでしょ? 首を」
実際にこの目で見たのに、言葉にしても信じられなかった。
郁実が誰かを殺すなんてありえない。
わたしの知っている彼はそんなことするわけがない。
よりによって玲ちゃんを、殺す動機だってないはずなのに。
「それは……」
わたし以上に動揺している様子の彼は、うまく言葉を紡げないで視線をさまよわせている。
言い訳したり取り繕ったりする気はないようだ。
非難したいわけではなくて、ただ理由が聞きたかった。
信じられないけれど、だからこそ、信じたくて希望を探してしまう。
展開が変わったことと関係がある?
タイムリープを繰り返したせいで、よくない方向に“変化”した?
もともとはわたしを庇って死んでしまう運命だったはずなのに、何がどうなって、郁実が玲ちゃんを手にかけることになるんだろう。
あんまりだ。ありえない。
何か、大事な歯車が狂ったとしか思えない。
「玲……」
ふいに聞こえたのは凍えるような硬い声。
驚いて息をのむ。
振り返ると、戸枠のところに柊先輩が立っていた。
その後ろにはどうしてか真白先輩もいる。
「せ、先輩。あの……」
何から話せばいいのか、呼びかけたものの言葉に詰まる。
きっと先輩もいま、信じがたい状況に晒されているはずだ。
近しい玲ちゃんが突然殺されたなんて、理解も感情も追いつかないで動揺しているにちがいない。
だけど、郁実のしたことはひとまず隠さなきゃ。
何か理由があって、きっと彼は悪くないはず────。
無意識にそんなことを考えて言葉を探しているうち、痛ましげに玲ちゃんの遺体を見つめていた柊先輩の目がこちらに向いた。
ぞくりと背筋が凍りつく。
(え?)
怒ったような恨みがましいような、到底普段の彼からは想像もつかない鋭い眼差しだった。
甘さの欠片もなく、憎悪に満ちている。
「また間に合わなかった。“今日”をやり直さないと……もう一度」
わたしを捉えていながら、 うわ言のような低い呟きだった。
その豹変ぶりも、言葉も、とても見過ごせない。
「先、輩……?」