メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 彼はあの子を救いたいんだ。

 不可抗力的に命を落としてしまうあの子を、タイムリープを繰り返し、何度もやり直して運命に(あらが)っている。
 僕が花菜を救いたいのと同じ。

(それでもって、花菜の死は先輩たちの仕業だったのか)

 少なくとも花菜を刺殺した犯人は、柊先輩で間違いない。
 事故や火事は分からないが、人為的じゃない死因でも、天使なんて超常の存在が背後にいるならどうとでも説明がつく。

 そうやって花菜を()()死に追いやることで、あの子が死なないよう守ってきたんだ。

 花菜が亡くなっていれば、あの子が庇う相手もいなくなる。
 命を落とす原因ごと排除したわけだ。

「何が天使だ……。ただの死神じゃないか」

 思わずこぼすと、ふっ、と悪魔が冷ややかに笑った。

「だからたち悪ぃんだよ」

 悠然と歩み寄ってきた彼の瞳に捕まる。

「さあ、これからどうする? このことを知ってもおまえの覚悟は変わらないと見たが」

「……当然だよ」

 柊先輩にとってあの子がどれだけ大切な存在かは知らないけれど、どんな事情があったって許されない。
 運命をねじ曲げることも、そのために花菜を殺すことも。

 本来のシナリオに従うべきだろう。
 死は等しく、誰にでも平等に降りかかるものだから。

(柊先輩や……天使とやらを止めないと)

 成り行きに任せていれば、きっと本来の運命をたどるはず。
 だけど僕だけが何もしなかったら彼らの思うつぼだ。

 かといって下手に動くと花菜の死期を早めかねない。
 “昨日”、偶然にでも彼女が生き延びられたのは、僕が積極的に動かなかったお陰かもしれない。

 それなら“昨日”みたいに花菜を見守りながら、()()()()が来るのを待とう。



 ────そう思っていたのに、間に合わなかった。
 放課後を待たずして花菜は殺された。

 騒々しい人だかりを分け、地面に横たわる彼女と鮮やかな血溜まりのそばに崩れ落ちる。

 上を仰いでみれば、屋上にふたつの人影があった。
 すぐに身を引いて消えたものの、白っぽい艶やかな金色の髪がなびいたのを捉える。

「……っ」

 突き落とされたんだ。
 そう理解すると同時にはらわたが煮えくり返った。

(なんて身勝手な────)

 コンクリートに立てた爪が割れる。
 感情が(たぎ)って、身体中が冷たいのに火傷するほど熱い。

 こうなったら、いまからでも話しにいかないと。
 先輩は“昨日”の結末を受けて焦っている。

 冷静に顔を合わせられる自信はないけれど、どうせ巻き戻すなら砂時計を使うのはいまじゃなくてもいいだろう。

 そう思ったそのとき、ふいに指先に何かが触れた。
 弱々しい感触にはっとすると、血まみれの花菜の手が伸びてきていた。
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