メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「花菜……? 花菜!」
「いく、み……」
生きていたんだ。
脚の関節はいびつな方向に曲がっているし、きっと内臓なんかも無事じゃない。
それでも、まだ意識があった。
「……て、助けて。くるし……」
途切れ途切れの細い声で、言い終わらないうちに口から血があふれた。
虚ろな瞳がみるみる色を失っていく。
「花菜……っ」
それを目の当たりに、僕の心臓は音を立てて砕けた。
焦燥感に焼かれる全身を動揺が駆け巡る。
「待って。いま……いま、助けるから……」
だめだ、意識があったってこれじゃ助からない。
時間の問題だ。
震える手で砂時計を取り出すと強く握り締める。
残る薔薇は2輪。
猶予はないし、きっとこのまま花菜を看取って先輩たちのもとへ向かうのが一番いい。
(でも、そんなことできるわけない)
助けて、と言われたのに見殺しになんかできない。
このまま苦しめ続けるなんて、それをただ傍観するなんて、とても耐えられない。
(……ごめん。本当にごめん)
次こそは絶対に守り抜いてみせるから。
そう固く誓い、砂時計をひっくり返した。
◇
見慣れた朝に戻ってきた僕は、自分でも意外なくらい冷静だった。
取り出した砂時計を見やる。
花びらがはらりと散って消え去り、残る薔薇は1輪だけ。
タイムリープは今回きりだ。
そうと分かっていても、不思議と焦りは湧いてこない。
花菜を救う確実な方法も分かっていなければ、先輩や天使と話をすることもできていないのに。
(……たぶん、話したところで同じ)
彼らのあの子を救いたい気持ちは本物だ。
“昨日”、花菜を失って改めて思い知った。
そのために花菜を手にかけることも厭わないなんてどれほどの覚悟が必要だったか、いまは非難以上に痛みを感じる。
どうしたって折り合えないだろう。
僕だって同じだから────花菜を救うためなら、何だってできる。
どんな御託を並べられても、彼女の命だけは諦められない。
「あとがなくなったな。どうだ、“今日”こそはうまくいきそうか?」
「……どうかな」
おもむろに隣に現れた悪魔にも、笑みを返せるほどの余裕を持ち合わせている。
いや、本当のところは余裕のなさの裏返しかも。
そんな僕の態度を訝しむように彼は顎に手を当てた。
「何か吹っ切れたみてぇに見えるけど、どうするつもりだ?」
「心でも読んだらどう? いつもみたいに」
「ふん……やめとく。“今日”は面白いもん見られそうだからな」
ふっ、と思わず小さく笑う。
面白いかどうかはともかく“今日”の結末は、僕にとっては唯一の選択になるだろう。