メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「帰ろっか。どっか寄ってく?」
結末までの秒読みは始まっている。
だけど、少しでも長く一緒にいたい。
そんなことを思った矢先、花菜がそう言ってくれた。
「いいよ、とりあえず出よう」
深い意味はなくても、わずかにでも気持ちが通じたなら嬉しい。
気づけば頬を綻ばせていた。
「……でね、中間の結果でお母さんに叱られて喧嘩になっちゃって。そろそろ受験のことも考えないといけないのかなぁって思ったら、何か気が重いし」
校門を潜るまでの間、花菜はいつもと変わらないささやかな話を聞かせてくれた。
友だちの話、新作のスイーツの話、家族の話……どれも日常の象徴だ。
ふいにはっとした様子で彼女は顔を上げる。
「ごめん、わたしばっか話して! 伝えたいことがあるって言ったのは郁実なのに」
「うん、でもいいよ。花菜の話聞くの楽しいし」
どんな話でも特別に感じられる。
なんて、自分でもかなり重症だと思う。
「本当?」
「本当。花菜と話すのは気楽でいいし、嬉しいから。……いや、お母さんとの喧嘩を面白がってるわけじゃなくて」
「それは分かってるけど……。嬉しいって何が?」
花菜が首を傾げたとき、点滅していた横断歩道の信号が赤に変わる。
ちょうどよくタイミングが巡ってきた。
花菜に対する想いや、恋心とひとくくりにしないでどう思っているのかを、知っていて欲しいと思った。
僕にとってどれほど大きい存在かということを。
「僕、あんまり話すの得意じゃないんだけど……花菜は何かほかの人とはちがうって言うか。色々聞いてくれるから気楽なのかな。それが嬉しいのかも。うまく言えないけど」
なるべくスマートに伝えたかったのに、綺麗にまとまる前に言葉がこぼれていった。
どちらかと言うと大人しい僕は、自分から話をするのが昔から好きじゃない。
対して花菜は素直で活発で、いろんなことを聞かせてくれる。
欠けたところと飛び出たところ、ちょうどパズルのピースがはまるみたいな、ふたりでの時間がずっと心地よかった。
それに、花菜は僕のこともよく聞きたがった。
自分からは積極的に話さないことでも、彼女に聞かれると不思議と話せてしまう。
だけど、踏み込まれると嫌な部分には決して入ってこない。
そんな気遣いと向き合い方が、僕を受け入れてくれている気がして嬉しかった。
改めてそんなことをまともに言葉にしたのは初めてだったけれど、花菜は茶化さず聞いてくれていた。
どことなく照れくさそうに目を落とす。
「それは、だって気になるから……。郁実のこと聞きたいんだよ」
「僕も」
考えるより先に口をついた。
「知って欲しいし、知りたい」
その目をまっすぐ捉えながら紡ぐ。
……いまさらだな、もう。
分かっていたはずなのに痛い。