メリーでハッピーなトゥルーエンドを

「帰ろっか。どっか寄ってく?」

 結末までの秒読みは始まっている。
 だけど、少しでも長く一緒にいたい。

 そんなことを思った矢先、花菜がそう言ってくれた。

「いいよ、とりあえず出よう」

 深い意味はなくても、わずかにでも気持ちが通じたなら嬉しい。
 気づけば頬を綻ばせていた。

「……でね、中間の結果でお母さんに叱られて喧嘩になっちゃって。そろそろ受験のことも考えないといけないのかなぁって思ったら、何か気が重いし」

 校門を潜るまでの間、花菜はいつもと変わらないささやかな話を聞かせてくれた。
 友だちの話、新作のスイーツの話、家族の話……どれも日常の象徴だ。

 ふいにはっとした様子で彼女は顔を上げる。

「ごめん、わたしばっか話して! 伝えたいことがあるって言ったのは郁実なのに」

「うん、でもいいよ。花菜の話聞くの楽しいし」

 どんな話でも特別に感じられる。
 なんて、自分でもかなり重症だと思う。

「本当?」

「本当。花菜と話すのは気楽でいいし、嬉しいから。……いや、お母さんとの喧嘩を面白がってるわけじゃなくて」

「それは分かってるけど……。嬉しいって何が?」

 花菜が首を傾げたとき、点滅していた横断歩道の信号が赤に変わる。
 ちょうどよくタイミングが巡ってきた。

 花菜に対する想いや、恋心とひとくくりにしないでどう思っているのかを、知っていて欲しいと思った。
 僕にとってどれほど大きい存在かということを。

「僕、あんまり話すの得意じゃないんだけど……花菜は何かほかの人とはちがうって言うか。色々聞いてくれるから気楽なのかな。それが嬉しいのかも。うまく言えないけど」

 なるべくスマートに伝えたかったのに、綺麗にまとまる前に言葉がこぼれていった。

 どちらかと言うと大人しい僕は、自分から話をするのが昔から好きじゃない。
 対して花菜は素直で活発で、いろんなことを聞かせてくれる。

 欠けたところと飛び出たところ、ちょうどパズルのピースがはまるみたいな、ふたりでの時間がずっと心地よかった。

 それに、花菜は僕のこともよく聞きたがった。
 自分からは積極的に話さないことでも、彼女に聞かれると不思議と話せてしまう。

 だけど、踏み込まれると嫌な部分には決して入ってこない。

 そんな気遣いと向き合い方が、僕を受け入れてくれている気がして嬉しかった。

 改めてそんなことをまともに言葉にしたのは初めてだったけれど、花菜は茶化さず聞いてくれていた。
 どことなく照れくさそうに目を落とす。

「それは、だって気になるから……。郁実のこと聞きたいんだよ」

「僕も」

 考えるより先に口をついた。

「知って欲しいし、知りたい」

 その目をまっすぐ捉えながら紡ぐ。

 ……いまさらだな、もう。
 分かっていたはずなのに痛い。
< 66 / 72 >

この作品をシェア

pagetop