メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「長く一緒にいるからそれなりに分かってはいるけど……それでもまだ、何か届かない気がするから」
花菜のことはよく知っている。
天真爛漫で優しい性格も、甘いものや紅茶が好きなことも。
学校帰りにランドセルを放って一緒に遊んだことも、柔らかい寝顔も、ふたりで取ったうさぎのクッションも────僕の記憶の半分以上は、花菜との思い出が占めているかもしれない。
知り尽くしていても、理解し尽くしていても、必ずしも心の距離とは比例しないものだ。
幼なじみでいることだけが、彼女のそばにいる条件だったから。
(……やっぱり言えない)
言わない方がいい。
意気地なしでも臆病でもないけれど、花菜の気持ちを無視して伝えるなんて、そんなの自己満足に過ぎない。
「それって、どういう意味?」
「……分からないままでいいよ。分からないふりをしてるならそれでも。たぶん、その方がいい」
ついさっきまで言葉にする気でいたせいで、僕の態度は分かりやすかったと思う。
花菜も勘づいたかもしれない。
だけど、これ以上は口にしない。
タイムリープのことも、彼女の運命も、僕の想いも、ぜんぶ抱えたまま消えることにする。
「でも、じゃあ“伝えたいこと”って……」
「伝わったでしょ?」
捨てきれなかった未練の部分に引っ張られ、つい笑ってそう返してしまう。
どっちつかずの曖昧な態度こそ僕のわがままでしかないのに。
「忘れて。やっぱり……あ、青になった」
さっさと流してしまおうと、青信号を口実に横断歩道を渡り始める。
何となく花菜の顔を見るのが怖かった。
「ち、ちょっと待って────」
渡りきってから振り返ると、彼女が駆け出そうとちょうど足を踏み出したところだった。
その瞬間、響き渡ったクラクションが耳をつんざく。
はっと息をのんだ。
足がすくんでしまったのか、横断歩道の真ん中で動けなくなっている花菜目がけ、大型トラックが突っ込もうとしている。
「花菜!」
弾かれたように地面を蹴った。
すべてがスローモーションのように感じられる中、秒読みが終わったことを悟る────。
無我夢中で花菜を突き飛ばしたその直後、全身を激しく鈍い痛みが駆け巡った。
頭も目の前も真っ白になって、気づいたときには地面に伏していた。
「う……っ」
身悶えして暴れたいくらいの激痛なのに、指先すらぴくりとも動かせない。
「……へぇ。なかなか粋な結末だな」