メリーでハッピーなトゥルーエンドを
     ◇



「……え?」

 驚愕と衝撃が一周回って、かえって気の抜けたような調子で聞き返してしまう。

 そんな僕を見た御影はわざとらしくため息をついた。

「おいおい、本当に毎回同じ反応だな」

 ひとけのない学校の裏庭は、昼休みでも僕たちのほかに誰もいない。
 ばさ、と真っ黒なカラスが飛び立っていった。

「待って……どういうこと? “毎回”?」

「……ったく、分かった。もう一回言うぞ。よく聞けよ」

 自ずと身構えてしまいながら続きを待つと、御影は珍しく軽薄な笑みを消して口を開いた。

「俺は悪魔で、これから起こることを知ってる。このままいくと、カナが死ぬ。けど、実はおまえが庇って代わりに死ぬ“今日”を何度も繰り返してんだ。おまえに記憶がないだけでな。それでも、あの女を守ることが自分の使命だっておまえは信じてる」

「……それは、分かる」

 到底信じがたいけれど、僕がその選択をするのは自然というか当然と言えた。
 花菜が死ぬと分かっているなら、尚さら。

「でも、何で僕は覚えてない? “今日”を繰り返してるって……」

「おまえが死んだとき、砂時計が壊れたんだ。だからこれはもうおまえのタイムリープじゃない。そして、誰であれ死ねば記憶を失う」

 まったくもって意味が分からなかった。
 砂時計が何なのか、タイムリープとはどういうことなのか、言っていることの半分も理解できない。

「けど、俺さまが特別にこうして教えてやってるってわけだ。契約したから特別にな」

 “特別”をやたら強調しながら、御影は得意気に笑う。

 そもそもクラスメートが悪魔だったなんてところから普通なら信じられないのに、なぜかこいつの言葉には説得力があって真に迫っていた。
 からかっているだけとも冗談とも取れない。

 だけど、途方もない話だ。

 花菜が死ぬだとか、それを庇って僕が代わりに死ぬだとか、タイムリープとやらでそんな“今日”を繰り返していたとか、僕にそんな記憶はないから。

 とても理解や感情が追いつかないものの、考えているうちにため息がこぼれた。

「……だめだ、よく分からない。御影の説明が下手だからかな」

「何だと?」

「悪魔だって言うなら、口で説明するんじゃなくて記憶ごと取り戻してくれたらいいのに。それくらいできるんでしょ?」

 むっとしていた彼は、その言葉を受けて意外そうな表情になる。

「さすが、忘れても勘は鋭いな。でもお断りだ。おまえの記憶を取り戻してやったら、どうせ同じことを繰り返すだけになる。そんなのつまんねぇだろ」

 何となく彼のことが掴めてきた。
 面白いか面白くないかを価値判断の基準にしているようだ。

 実に悪魔らしいけれど、そう考えると僕に言っていないことがほかにもあるような気がした。

 たぶん、わざと何かを隠している。
 なぜなら彼にとってはその方が面白いから。
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