恋をして、大人になった。
第3章 高校 ― 優しさを信じた恋
高校に入ってからのわたしは、
恋なんてもう少し先の話だと思っていた。
でも、気づいたらまた誰かを目で追っていた。

隣のクラスの彼と初めて話したのは、
たぶん一年の一学期の中間テストの頃。
廊下で偶然会って、なんとなく「テストどうだった?」って声をかけた。
それだけの会話なのに、不思議と心が軽くなった。

その帰り道、一緒に歩きながら他愛もない話をした。
笑っているうちに、「あ、この人のこと好きかも」って思った。
それは、痛みを伴わない穏やかな“好き”だった。

彼はとても優しかった。
困っているときはさりげなく助けてくれるし、
わたしが友達と喧嘩して落ち込んでいたときも、
後からわざわざ来て「さっき、あの子と一緒にいてごめんね」って言ってくれた。

その一言で、涙が出そうになった。
“人の優しさを信じること”を、やっと思い出した気がした。

一年のバレンタインの日、
勇気を出してチョコを渡した。
そのときは照れくさそうに笑って受け取ってくれたけれど、
ホワイトデーのお返しはなかった。
少ししょんぼりしたまま時が過ぎた。

でも二年のホワイトデーの日、
彼がふいにお菓子を差し出してきた。
「これ、去年の分も一緒に」
そう言って少し照れくさそうに笑った。

一年前、返事をもらえなかった自分の想いが
ようやく報われたような気がした。
胸の奥がじんわり温かくなって、
その笑顔を今でも鮮明に覚えている。

卒業の少し前、勇気を出して告白した。
彼は少し考えて、「卒業してから答えを出す」と言った。
それが彼らしかった。

そして卒業後、もう一度伝えた。
結果は、残念ながら“ごめん”だった。

涙は出なかったけれど、
胸の奥が静かに沈んでいくような感覚があった。
期待していた分だけ、ぽっかりと穴が空いたみたいで、
しばらくの間、何をしても心ここにあらずだった。

それでも、数日が経つうちに気持ちは少しずつ落ち着いていった。
しばらくして、彼が舞台に出演するようになったと知った。
それ以来、彼から届く案内を通して、
配信越しに舞台を観るようになった。

今でも、たまにLINEでお知らせが届く。
そのたびに、画面の向こうで頑張る彼を見て、
「夢を叶えたんだな」って心から思う。

彼への気持ちは、もう恋じゃないけれど、
間違いなく、あの頃のわたしを支えてくれた大切な時間だ。

あの高校の三年間で、
恋は痛いだけのものじゃなく、
“優しさで心が温かくなるもの”だと知った。
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