御曹司社長の契約溺愛 シンデレラなプロポーズは、夜ごと甘く溶けて

第二十五章：愛の契約の完全な成就

鳴神響との一件から数ヶ月、神楽坂蓮の人生は、琴音と、生まれてくる子のための「絶対的な安全保障」を確立することに費やされた。タワーマンションの最上階は、最高レベルのセキュリティと、医療設備が整えられ、まるで要塞のようだった。

蓮は、以前の多忙なスケジュールを調整し、可能な限り自宅で仕事をこなした。彼は、琴音の体調の変化に神経を尖らせ、最高級の栄養士が作成した献立を自らチェックし、時には琴音の足のマッサージまで行うようになった。
「蓮。あなたは本当に変わったわね。こんなに私に尽くしてくれるなんて」

琴音は、ソファで蓮に足を揉まれながら、微笑んだ。
「尽くすのではない、琴音。これは、私の最優先事項に対する、当然の事だ。」

蓮はそう言いながらも、その手つきは優しく、その表情は愛に満ちていた。彼は、愛を依然として「支配」という言葉で定義するが、その実態は、紛れもない究極の献身へと昇華していた。

そして、予定日を数日過ぎた深夜。琴音の陣痛が始まった。
蓮の反応は、冷静沈着な社長のものとは、かけ離れていた。彼は、瞬時に顔面蒼白になり、真柴が来るよりも早く、自分で運転して病院へ向かおうとした。
「落ち着いて、蓮！真柴さんがもう来てるわ！」

琴音に止められ、ようやく蓮は冷静さを取り戻したが、その手は終始震えていた。
病院に着いてからも、蓮は冷静でいられなかった。陣痛で苦しむ琴音を見て、彼はその手の甲に何度もキスをし、「苦痛を私に分け与えろ。これが私の義務だ」と、何度も囁いた。

分娩室の外で待つ蓮の姿は、冷徹な神楽坂社長とはかけ離れていた。彼は、愛する妻が苦しんでいるという、計算外の非合理的な苦痛に直面し、完全に動揺していた。
「真柴。私は、彼女の安全が確認されるまで、一歩もここを離れない。すべての会議、すべての契約を、保留にしろ。今、この場所が、神楽坂グループの最も重要な意思決定の場だ」

蓮は、生まれてくる命と、琴音の命の重さが、全世界のビジネスを凌駕することを、改めて認識した。

数時間の激しい陣痛の後、分娩室から元気な産声が響いた。
蓮が分娩室に入ると、疲労困憊の琴音が、小さな赤ちゃんを抱きしめていた。

「蓮……見て、私たちの子よ」
琴音は、そう言って微笑んだ。
蓮は、その光景を見て、一瞬、立ち尽くした。そして、彼の瞳から、一筋の涙が静かに流れ落ちた。それは、彼が生まれてから初めて流した、感情の涙だった。
「琴音……ありがとう」

蓮は、琴音と、その腕の中のわが子を、ゆっくりと、しかし壊れ物のように大切に抱き締めた。
「この子は……この子は、私の究極の被支配者だ。そして、君は……私に、この究極の愛を教えてくれた」
彼は、赤ちゃんの小さな手に、そっと触れた。

「君たちが、私のすべてだ。この命と、君の存在が、私の永遠の合理性だ」

その後、病室に戻った琴音と赤ちゃんの隣で、蓮はほとんど離れなかった。
「蓮。この子の名前、どうする？」
「名前か……」

蓮は、赤ちゃんの小さな寝顔を見つめ、静かに言った。
「私の支配を完成させる、新しい契約の証だ。そうだな……」

蓮は、琴音の顔を見つめ、優しく微笑んだ。
「神楽坂 愛。この子の存在そのものが、私と君の間に結ばれた、永遠の愛の支配を証明している」
琴音は、その名に込められた、蓮の不器用で、真実の愛の決意を感じ取り、深く頷いた。

「最高の名前ね、蓮」
蓮は、そう言うと、琴音の唇に、そして愛の契約の証である愛の頬にキスをした。

契約結婚は、愛という名の支配へと変わり、そして、新しい命の誕生によって、その愛の契約は、究極の成就を遂げた。神楽坂蓮の冷徹な世界は、永遠に、妻と子の温かい愛によって満たされ続けた。彼の支配は、永遠の幸福という形で、成就した。