御曹司社長の契約溺愛 シンデレラなプロポーズは、夜ごと甘く溶けて

第八章:契約を越えた独占欲

パーティから数日後、琴音は朝食のテーブルで、蓮の機嫌がわずかに悪いことに気づいた。
蓮はいつものように完璧なスーツ姿で新聞に目を落としているが、コーヒーを飲む動作がいつもより鋭い。
「蓮、どうかしたの?」

琴音がおそるおそる尋ねると、彼は新聞を音を立てて折りたたんだ。
「君には関係ない。仕事上の問題だ」
「ごめんなさい……」

そうは言っても、琴音は知っていた。昨日の昼間、蓮の会社のライバル企業である「鳴神フーズ」の社長、鳴神 響が、突然、神楽坂ホールディングスのロビーに現れたことを。蓮と鳴神はビジネス上の犬猿の仲だと真柴から聞いている。

(もしかして、鳴神さんのことで、何かあったのかな)
その時、蓮の鋭い視線が琴音を射抜いた。
「琴音」
「はい」
「昨日の昼、君は真柴と外出していたな。どの程度の時間だ」

「ええと、お茶の先生のところへ。午後の一時間半ほどですけど……」
「その間、鳴神響という男と接触したか?」
「え……!?」

琴音は目を見開いた。全く心当たりのない質問だった。
「いいえ!してないわ。どうしてそんなことを聞くの?」
「鳴神の側近が、君の姿を都心の一等地で見かけたと言ってきた。彼は、君が私の妻だと知っている。もし、あいつに不用意に近づいたのであれば、契約違反と見なす」

蓮の声は低く、脅迫めいた響きを帯びていた。
「まさか!私、誰とも会ってないわ。真柴さんの車の移動中も、教室でも、ずっと真柴さんが一緒だったもの」
「……そうか」

蓮は疑いの目を完全に晴らしたわけではないようだったが、それ以上は追及しなかった。しかし、その顔には、隠しきれない苛立ちと、冷たい嫉妬の色が浮かんでいた。

その日の夜、蓮は予定よりも早く帰宅した。リビングにいた琴音は、彼のただならぬ気配に息を呑んだ。
蓮は、ネクタイを乱暴に緩めると、まっすぐ琴音の前に立ちはだかった。

琴音は蓮の腕に触れようとしたが、彼はそれを振り払う。
蓮は、強い力で琴音の肩を掴んだ。
「君が私の知らないところで、他の男の視線に触れたことが、許し難い。たとえそれが偶然であろうと、私にとっては許せなかった。」
「っ……!」

蓮の瞳は、激しい感情の炎を宿していた。それは、契約という合理性を完全に超えた、純粋な独占欲だった。
「君の存在は、私のテリトリーの中になければならない。私の許可なく、他の男の話題にすら上がることを、私は好まない」

蓮は、そう言うと、琴音を抱き上げ、寝室へと運んだ。
「契約書に何と書いてあった?夜の要求は拒否しない、だったな」
蓮の声は怒りを含んでいるが、その怒りは、まるで琴音のすべてを飲み込もうとする熱へと変わっていった。

ベッドに押し倒された琴音のドレスは、容赦なく引き剥がされる。その乱暴さは、これまでの愛撫とは一線を画していた。
「見ていろ、琴音。君の体には、私以外の男の視線など、一秒たりとも残さない」

蓮は、琴音の肌に残った痕を確かめるように、強引に唇と指を這わせた。
「あの男が君を見たという事実が、私を苛立たせる。君のすべては、私のものだ。心も、体も、目線も、吐息も、すべて私の物だ」
「は、蓮……やめて、痛い……」

琴音の小さな抵抗の声は、彼の情熱と、彼の口づけに飲み込まれる。
彼の愛撫は激しく、そして、どこまでも貪欲だった。それは、愛情というよりも、所有権を再確認するための行為。
「君は、誰の妻だ。誰のベッドで眠っている。誰の金を使い、誰の体温で生かされている。言え」
「蓮……あなたの……あなたの妻よ……!」

琴音は、彼の独占欲に押しつぶされそうになりながらも、その名前を叫んだ。

蓮は、その答えに満足したように、激しい呼吸とともに琴音の肌に噛み付いた。
「そうだ。君は、私だけのものだ。他の誰にも、君に触れる権利はない」

彼の行為は、激しさの中に、どこか、泣いているかのような切実さを帯びていた。琴音の知らない、彼の過去の傷や、人間関係の孤独が、この独占欲を生み出しているのではないか――琴音はそう感じずにはいられなかった。
愛のない契約のはずだった。

だが、この肌と肌の熱い交流は、もはや契約という冷たい枠組みを完全に超えている。
蓮の抱擁は、琴音の体を熱で満たし、同時に彼の心の中の孤独と支配欲を露呈させていた。それは、彼の「合理的な愛」が、初めて破綻した瞬間。

「愛している……などという言葉は、安っぽい。君のすべてを支配し、君を私の色に染め尽くすことこそが、私にとっての愛だ、琴音」

蓮は、極限の快楽と支配の中で、そう囁いた。
琴音は、彼の強引な愛撫と、彼の独占欲が、むしろ自分への愛情であるかのように感じてしまい、抗うことをやめた。そして、彼の熱に溺れ、彼と同じように、純粋な快楽の中で、彼に自分を捧げた。
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