不埒な先生のいびつな溺愛【番外編集】
「そうなの? おかしいな、私ったら見過ごしちゃったかな。私は九時に来たけど、少しここでボーッとしてたところ」

本当は、久遠くんも来るんじゃないかって待っていた。
待っていてよかった。
いつもは九時前から開館を待っている久遠くんが、今日に限って遅く来るなんて。不思議。

「久遠くんはどうするの? 家に帰る?」

「……秋原は?」

「コミュニケーションセンター行こうかなって。私語自由だからちょっと嫌だけど。でも、家だとお母さんがうるさいから」

久遠くんも一緒にコミュニケーションセンターに行かないかな。
「俺も行く」って言葉を期待してそわそわとしてみるが、彼はなかなか言葉を発さない。

「久遠くんは?」

じれったくなり、隣に腰かけた。
彼の体はピクリと揺れる。

「……出掛けてる」

「ん? なにが?」

「出掛けてて、誰もいない。俺の家は勉強できる」

望んだ答えが返ってこず、胸がズキンと痛くなった。
彼と距離が縮まっているんじゃないかとひとりで勝手に盛り上がっていたが、そんな自分に釘を刺されたように感じた。


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