Jour de neige ある雪の日の思い出
無理に私のことを受け入れる義理も義務も、彼には全くない。



二人が知り合ったのは、私がまだ学生の頃。

10歳年上の彼は、私が当時バイトしていた出版社の社員だった。

「私、小説家になるのが夢なんですけど⋯⋯どうやら、全く才能がないみたいなんです」

そんなことを話した時、彼は親身にアドバイスをくれた。

残念ながら、いくらアドバイスをもらったからと言って、私の才能が壊滅的なのは変わらなかったが。

かなり親しくなった頃、

「実は、会社を辞めることにしたんだ」

唐突に言われ、もう会えないのかと悲しくなった。

「これからは、専業作家としてやっていこうと思ってる」

なんと、彼は覆面作家として既に何冊も出版しており、ペンネームを聞いたところ、それが私の大好きな作家だったのには、驚嘆を通り越して、気絶するかと思った。

その作家を女性だと思いこんでいたから、尚更だ。
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