あなたに殺された聖女の私
「違うのよ、カイレム……。聞いてちょうだい」
 王妃は自身の身体を両手で抱きしめた。それは自分を見えない何かから守るような仕草にも思えた。
「……ユリセナを殺したのは、私なの。あなたのことを思って……。あそこから突き落としたの。死体は、上がってくることはないわ。だから、あの子がパーティー会場にいただなんて、嘘よ、嘘……」
「母上!」
 カイレムが声を荒らげる。
「母上も疲れているのです。だからありもしない妄想に囚われる。そんなこと、あるはずがありません」
 カイレムはビシッと母に告げた。それから控えていた侍女に声をかけ、王妃を頼んだ後、カイレムは席を立った。
「王妃をゆっくり休ませるように」
 サロンを出たカイレムは、執務室に足を向ける。
 イブリンといい、王妃といい、ありもしない妄想に囚われている。ましてユリセナを殺したなど、そんなこと、あるはずがない。
 重く感じる頭を抱えたまま、カイレムは執務席についた。
 このようなときに急ぎの仕事などあるわけないのに、机の上の書類につい手を伸ばしてしまう。
 ユリセナはイブリンや王妃と仲がいいとは言えない関係だった。
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