敏腕社長の密やかな溺愛
 翌週、千明はいつもより張り切って業務に励んでいた。

(社長に宣言しちゃったんだもの)

 今日の仕事は、次回のプレスリリースに向けたメディアリスト作成だ。
 これまでのメディアがどのように報じていたかを確認し、扱いが悪いところを除外したり、大きく取り扱ってくれそうなメディアをリストに追加していく。

『プレスリリースなんて大手に絞っておけば良いだろう?』

 と課長は渋い顔をしていたが、隙間時間で作成するからと許可をもらった。

 あと少しでリストが完成するという時、千明は斎藤に声をかけられた。

「先輩、ちょっと手を貸してほしいんですけどー」
「どうしたの?」

 斎藤が手招きする方へと向かうと、そこには大量の書類が積まれていた。
 千明が近づくと、斎藤はにこやかな笑みを浮かべていた。

「これえ、もう使わない資料なんですけど、廃棄しておいてもらえます? 棚のスペース空けたくて頑張って出したんです。あっ、空いたスペースには昨年度までのCMコンテファイルを入れておいてください。資料室にあるはずなんで」
「分かったわ。台車を借りてくるわね」
「それが、ダメなんです。先輩」
「え?」

 千明が首をかしげると、斎藤は悲痛な表情を見せた。

「今日、エレベーターの点検があってえ……。階段でお願いします」
「ちょっとそれは……明日でもいいかな?」

 資料室やシュレッダー室は一階だ。広報二課のフロアは三階。これだけの量、何回往復すればいいかも検討がつかない。
 ところが斎藤は千明の提案を却下した。

「明日って、朝イチで安全監査があるんです。ここに余計な荷物が置いてあったら叱られちゃいますよー。私、今から会議なんで頑張ってくださーい」
「ちょ、ちょっと!」

 斎藤は言うだけ言うと、あっという間に立ち去ってしまった。
 誰かに助けを求めようとフロアを見渡すと、課長と目があった。
 彼はのんびり千明に近づいてくると、肩をポンポンと叩いた。

「たまには運動ってことで! 俺も小野さんには体力つけてほしいと思ってたんだよねー。ちょうどいいから頑張ってみて」
「えっと……はい」

 優しさにあふれた顔でそう言われては、誰かを頼ることも難しい。

(ゆっくりやったら大丈夫よ。走るわけでもないし、やれない事はないわ)

 自分に言い聞かせて、書類の山を近くにあった段ボールに押し込んだ。


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