敏腕社長の密やかな溺愛
「なんで今日に限って面倒な仕事しているんだ? 別日にエレベータ使えばすぐ終わるだろ?」
「……頼まれまして」

 うまい言い訳が思いつかず、正直に告げると、和弘は少しだけ眉をひそめた。

「なるほどね」

 低く呟かれた声は、千明の耳に入ることはなかった。



「あのっ……シュレッダー室まで運んでくださっただけで十分ですから!」
「結局階段で三階に向かうんだから、ついでだ。広報二課だったな」

(どうして社長が私の雑用を……!?)

 結局和弘に言いくるめられ、資料室にも寄って、資料を広報二課まで運ぶのを手伝ってもらうことになってしまったのだ。
 持っていく資料は山ほどあったのに、和弘が全部持ってしまったせいで、千明は手ぶらでただ和弘の後ろをついていくしかない。

 広報二課のフロアに着くと、皆がこちらを見ているのを感じた。
 ずんずんと進んでいく先には、広報二課の課長がいた。

「しゃ、社長? 今日はどのような件で……」

 課長は和弘と千明の顔を交互に見て、だんだんと顔が青くなっていった。

「広報二課の社員が、ずいぶん大変そうだったからな。手伝ったんだ」
「そ、そうですか。うちの小野がご迷惑を……」

 課長は額に汗を浮かべてしどろもどろになっていた。

「迷惑? 困っている社員に手を貸すのは当然だろう? というより、一人でやる作業ではないな。わが社の安全規則に従うなら、『台車使用かつ二人以上での作業』に当てはまるはずだ。違うか?」
「お、おっしゃる通りです」
「今日はエレベーターが使えないと事前に通達があったはずだ。別日にやる指示をすべきだろう」
「はい」

 和弘の冷静な声に押されて、課長の声がだんだんと小さくなっていく。

「じゃあ俺は戻る」
「あのっ、ありがとうございました」

 慌てて千明が和弘に頭を下げると、彼は短く「あぁ」とだけ言って去っていった。


 残された千明が課長を見ると、彼は肩を落としていた。

「小野さん、残りは明日でいいから。張り紙しておけば、安全監査も問題ないから」
「わかりました」

 弱ったような課長には申し訳ないが、千明はホッとしていた。

(これだけ目立ってしまうとやりにくいし、明日になって良かった……)


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