敏腕社長の密やかな溺愛
「……出来た、のか?」
「はい! これで完成です! あ、これ写真撮っても良いですか? 春子さんに送ってあげたくて」
千明がスマホを取り出すと、和弘は一瞬だけ思案した後、面白そうに微笑んだ。
「構わない。俺にも送ってくれるなら」
「え? えっと、じゃあ連絡先を……」
「あぁ」
(連絡先を交換してしまった。社長と……。ううん、今は春子さんの息子さんの和弘さんよ! 気にしちゃ駄目)
心臓がドキドキするのは相手が社長だからだ。
千明は意識しないように、自分に言い聞かせた。
春子に写真を送ると、『まあ素敵! あの子も意外とやるのねえ』と、とても喜んでくれた。
「じゃあ今日はここまで。片付けましょうか」
「あぁ」
まな板やカービングナイフを洗っていると、和弘が隣に立って、洗い終わったものをどんどん拭いていってくれる。
(よく気がつく人ね。さすが春子さんの息子さんだわ)
あっという間に片付けが終わると、和弘がふと口を開いた。
「今日はいい経験になった。ありがとう。次回はたぶん母が参加できるだろう」
「こちらこそ楽しかったです。春子さんにお大事にってお伝えください。……私も腰が悪いので辛さは少しだけ分かります」
思わずそう言ってしまってから、千明は少し後悔した。
(和弘さんが話しやすいからって、余計なことを!)
「……そうか」
案の定、和弘は少しだけ心配そうな顔をしていた。
千明は慌てて笑顔を作る。
「ちょっと動かしにくいってだけです。昔、交通事故に遭って、ほんの少し後遺症があるだけなんです! それに、春子さんとも整体で知り合ったんですよ。それで教室に通ってくれるようになって……良いご縁が出来たんで、悪いことばかりじゃないです」
ペラペラと口から勝手に言い訳のような言葉たちが出てきてしまう。会社の人にはずっと黙っていた事故のことまでも――。
すると和弘は真剣な眼差しで千明に一歩近づいた。
「事故は君のせいじゃないのだろう?」
千明を見つめる瞳は、何かを訴えているように見えた。だが、それが何かは分からない。
(なぜそんなことを? ああ、そっか。安全システムや事故に関心があるのね)
目の前にいるのは安全システムを手がける会社の社長でもあるのだ。それを思い出し、千明は納得した。
彼の役に立てるのなら。事故のサンプルになれるのなら。そう思って千明は正直に答えることにした。
「自分から飛び込んだんです。目の前の人が車にひかれそうだったので」
「それは……後悔していないか?」
痛ましく歪められた表情を見ていると、こっちも苦しくなる。
だから千明は微笑んだ。
「後悔はないです。その人は助かったし、私もこうして元気で過ごせているので。それに、カービングにも出会えました。こうして教室まで開けちゃいましたし。私、幸せですよ」
千明が作品を指さして、「ほら、最高でしょう?」と笑いかけると、和弘はようやく表情を和らげた。
「そうか、良かった。……そうだ、先生はこの後のご予定は?」
「特には何も」
「じゃあ一緒に夕飯でもどうだ? 今日、無理やり押しかけたお礼をさせてほしい」
「え……」
和弘の「是非」という言葉に断れず、千明は戸惑いながらうなずいた。
「はい! これで完成です! あ、これ写真撮っても良いですか? 春子さんに送ってあげたくて」
千明がスマホを取り出すと、和弘は一瞬だけ思案した後、面白そうに微笑んだ。
「構わない。俺にも送ってくれるなら」
「え? えっと、じゃあ連絡先を……」
「あぁ」
(連絡先を交換してしまった。社長と……。ううん、今は春子さんの息子さんの和弘さんよ! 気にしちゃ駄目)
心臓がドキドキするのは相手が社長だからだ。
千明は意識しないように、自分に言い聞かせた。
春子に写真を送ると、『まあ素敵! あの子も意外とやるのねえ』と、とても喜んでくれた。
「じゃあ今日はここまで。片付けましょうか」
「あぁ」
まな板やカービングナイフを洗っていると、和弘が隣に立って、洗い終わったものをどんどん拭いていってくれる。
(よく気がつく人ね。さすが春子さんの息子さんだわ)
あっという間に片付けが終わると、和弘がふと口を開いた。
「今日はいい経験になった。ありがとう。次回はたぶん母が参加できるだろう」
「こちらこそ楽しかったです。春子さんにお大事にってお伝えください。……私も腰が悪いので辛さは少しだけ分かります」
思わずそう言ってしまってから、千明は少し後悔した。
(和弘さんが話しやすいからって、余計なことを!)
「……そうか」
案の定、和弘は少しだけ心配そうな顔をしていた。
千明は慌てて笑顔を作る。
「ちょっと動かしにくいってだけです。昔、交通事故に遭って、ほんの少し後遺症があるだけなんです! それに、春子さんとも整体で知り合ったんですよ。それで教室に通ってくれるようになって……良いご縁が出来たんで、悪いことばかりじゃないです」
ペラペラと口から勝手に言い訳のような言葉たちが出てきてしまう。会社の人にはずっと黙っていた事故のことまでも――。
すると和弘は真剣な眼差しで千明に一歩近づいた。
「事故は君のせいじゃないのだろう?」
千明を見つめる瞳は、何かを訴えているように見えた。だが、それが何かは分からない。
(なぜそんなことを? ああ、そっか。安全システムや事故に関心があるのね)
目の前にいるのは安全システムを手がける会社の社長でもあるのだ。それを思い出し、千明は納得した。
彼の役に立てるのなら。事故のサンプルになれるのなら。そう思って千明は正直に答えることにした。
「自分から飛び込んだんです。目の前の人が車にひかれそうだったので」
「それは……後悔していないか?」
痛ましく歪められた表情を見ていると、こっちも苦しくなる。
だから千明は微笑んだ。
「後悔はないです。その人は助かったし、私もこうして元気で過ごせているので。それに、カービングにも出会えました。こうして教室まで開けちゃいましたし。私、幸せですよ」
千明が作品を指さして、「ほら、最高でしょう?」と笑いかけると、和弘はようやく表情を和らげた。
「そうか、良かった。……そうだ、先生はこの後のご予定は?」
「特には何も」
「じゃあ一緒に夕飯でもどうだ? 今日、無理やり押しかけたお礼をさせてほしい」
「え……」
和弘の「是非」という言葉に断れず、千明は戸惑いながらうなずいた。