敏腕社長の密やかな溺愛
 結局、和弘お勧めのコース料理を堪能し、食べ終わる頃には千明もすっかりリラックスしていた。

 帰り際、和弘は思い出したように口を開いた。

「そういえば少し前、総務の部課長と会った時に君の話が出たんだ。惜しい人材を手放したと」
「え?」
「後輩への指導も丁寧だし、自ら率先して仕事をしてくれていたと褒めていた」

 和弘の言葉に千明の胸がじんわりと温かくなる。総務の人たちが自分を気にかけてくれていることが嬉しかった。

「もっと自信を持っていい。広報と総務では、かなり色が違うが、君はいつだってきちんと仕事をこなしている。胸を張って堂々としていればいい」
「堂々と……そうですね。ありがとうございます」
「ただ、どうしても上手くいかなかったら俺を頼ってほしい。君には幸せでいてほしいんだ」
「え? それって……」

 千明が聞き返しても、和弘は黙って微笑むだけだった。



 その夜、家に帰った後も、千明の頭には和弘の言葉がぐるぐると巡っていた。

(あれはどういう意味だったのかしら? ううん、きっと深い意味なんてないわよね)

 それでも、和弘の切なく、苦しそうな表情が頭から離れなかった。

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