敏腕社長の密やかな溺愛
5.ちゃんとした仕事
 翌週、千明はいつものように課のミーティングに参加していた。
 課長は連絡事項を一通り告げると、千明の方を見た。

「来月末、新システムお披露目の記者会見があるのは知ってるな? そこでの司会を広報二課から出すことになったんだが……小野さん、君が上から指名されている」

 課長の言葉で、課内の皆が千明の方を見た。
 狭いミーティングルームで皆の視線を浴びていると、針のむしろになったような気分になる。

 誰もなにも言わないが、「こいつが司会?」という感情がびしびしと伝わってくる。

「わ、私が司会ですか?」
「そう。どう? やる?」

 課長の声が心なしか威圧的に感じる。
 千明は思わず「えっと……」と口ごもった。

 すると斎藤が立ち上がり、「待ってください」と声をあげた。
 皆の注目が彼女に移る。

「課長! 千明先輩には荷が重すぎると思います。社外での活動はほとんど経験ないでしょう? 急にそんな大役は可哀想です。私が代わりますよ。イベントの司会なら経験もありますし」

 斎藤の自信満々な態度に、皆が感心したような視線を送る。
 どこからか「適任だよな」という声も上がってきた。

 千明が周囲を見渡すと、皆が納得したような表情をしていた。課長も深くうなずいている。

「そうなんだよなぁー。これは非常に重要な仕事だ。俺も斎藤がやってくれるなら安心だ。小野さんもそれでいい?」

 課長の言葉に皆が再びこちらを見る。
 千明はうなずくしかなかった。

「よしっ、じゃあ斎藤は原稿の作成頼むな。他の皆も協力するように! 記者会見はセレノヴァホテルで行われる。記者会見後にはホテルの別会場で懇親会があるから楽しみにしとけよー。あぁ、小野さんも絶対参加ね」
「はい」

 千明が返事をすると、斎藤がくすりと笑った。

「えー、千明先輩も参加してくれるなんて楽しみー」

 斎藤の発言に何人かがニヤリと口元を歪める。
 千明はずしりと胃が重くなった。

(別に室内の行事ならいつも参加してるのに。……それにしても、新システムのお披露目記者会見、間近で参加したかったな。でも仕方ないか)

 千明は前だけを見て、内心ため息をついた。


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