敏腕社長の密やかな溺愛
 ミーティングが終わり、部屋を片付けていると、斎藤が近づいてきた。

「千明先輩、『ちゃんとした』仕事は私に任せてくださいね」

 斎藤は満足げに微笑んでいたが、言葉には棘がある。いつもだったら意味もなく笑って流すところだったが、千明は彼女の言葉が引っかかった。

「ちゃんとした仕事って何? どの仕事も全部、ちゃんとした仕事でしょう?」

 千明は思わず言い返していた。和弘の言葉が頭に残っていたからかもしれない。

(堂々としていいはずよ)

 しかし千明が言い返したことが不満だったのだろう。斎藤の眉がピクリと動いた。

「はあ? 本当にそんな風に思ってるんですか? 先輩の頭の中はお花畑ですね。先輩がやってる仕事なんて、無くなっても誰も困らないんですよ」
「私はただ……」
「鬱陶しいんですよ、先輩。なんで社長に気に入られたのか知りませんけど、調子に乗らないでくださいね」

 斎藤はそのまま千明の横を通り過ぎる。
 その時、彼女の持っていたマグカップが千明の腕にぶつかった。

「わっ……ちょっと!」

 衝撃で溢れたコーヒーが千明の袖にかかる。
 千明の呼び止めに斎藤はチラリと振り返ったが、何事もなかったかのようにミーティングルームを出ていった。

(なんなのよ……)

 ハンカチでブラウスの袖を拭いても、茶色の大きなシミは拭いきれない。千明はやりきれなさを感じながらため息をついた。


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