敏腕社長の密やかな溺愛
「……以上で記者会見を終了いたします。皆様ご来場いただきありがとうございました」

 一通りリハーサルが終わると、和弘が冒頭からフィードバックしていく。
 鋭い指摘に、皆は背筋を伸ばして聞き入っていた。

「じゃあ最後に司会の斎藤さん」

 和弘が斎藤の方を向くと、スマホをいじっていた彼女はビクリと肩を震わせた。

「は、はい」
「最後の質疑応答でどんな質問が来ると予想する?」
「え? えーっと……」

 斎藤が目を泳がせる。和弘は短いため息をつくと、さらに質問を重ねた。

「じゃあ仮に、夜間や雨天時のセンサー能力について質問が来たら、誰に回答させる?」
「……」

 斎藤が黙り込むと、課長が後ろから駆け寄ってきて「まあまあ」と口を挟んだ。

「困ったら社長を指名したら大丈夫だから」
「それもいいだろう。では、広報のお二人に問おう。今回の新システム、一番のアピールポイントはなんだ?」
「えーっと、それは……」

 今度は課長も黙り込んでしまう。異様な雰囲気に見学者たちがざわめき始める。

「いや、それくらい分かるだろ」
「記者会見の内容、聞いていなかったのか?」

 課長と斎藤の顔がドンドンと青くなる。斎藤は俯いて小さく震えていた。
 和弘は見学者たちの方を向くと「小野さん」と千明の名を呼んだ。

「君ならどう答える?」

 和弘は真剣な眼差しで千明を見ていた。
 千明は小さく息を吸った。

「新システムの一番のポイントは、独自のドライバーモニタリングシステムにより、運転手の異変をいち早く検知出来る点です。これによって眠気や飲酒運転を判定し、外部センサーと併せることで事故を未然に防ぐことが可能です。それと、センサー能力に対する質問ですが、わたしなら品質部長に回答をお願いします。安全性能テストの結果についてお話してくださると思いますので」

 千明が一息に答えると、和弘はうなずいた。そして皆に向かって静かに言い放った。

「司会を交代しよう」

 すると斎藤がパッと顔を上げた。

「待ってくださいっ! わ、私、出来ます。小野先輩より経験がありますしっ……」

 彼女の叫び声に、会議室がシンと静まりかえる。
 すると技術部長が立ち上がった。

「斎藤さん、今だけのやる気じゃ駄目なんだよ。この記者会見には社運がかかっているんだ。参加者全員が一丸となってこのシステムを宣伝する必要がある。だから社長の言う通り、交代してもらえるかな?」

 技術部長はいつものようにニコニコと微笑んでいるが、その発言には有無を言わせぬ力があった。

「では小野さんを司会にして、再度頭から軽く流れを確認しよう。……そこの二人は退室してくれ」

 和弘の言葉に、課長と斎藤の二人は大人しく退室していった。



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