敏腕社長の密やかな溺愛
リハーサルを終えると、参加した部長たちが次々と千明に話しかけてくれた。
「すごくやりやすかったよ。本番もよろしく」
「突然だったのに、良かったよ」
「やっぱり僕の見込みは正しかったねぇ」
技術部長も満足そうにうなずいていた。
「ありがとうございます。当日はよろしくお願いします」
千明が部長や見学者たちに頭を下げて見送ると、大会議室は一気に静寂に包まれた。
残っているのは千明と和弘だけだった。彼は千明に近づくと、勝ち気な表情で微笑んだ。
「流石だった。やはり知識が積み上がっている者に任せると安心感がある」
「ありがとうございます。まだ実感が湧かないんですけど、当日は頑張ります」
千明が胸の前でぎゅっと拳を握ると、和弘の手がその拳をそっと包みこんだ。
「不安か?」
千明を覗き込む和弘の目は、まっすぐに千明の瞳を射抜いた。
強がりも虚勢も見抜かれてしまいそうで、千明は正直にうなずいた。
「少し……。私は皆の前で話す仕事をしたことないので」
大勢の前で話すのを想像するだけでも緊張してしまう。さっきは社内の人たちしかいなかったが、本番は違う。メディア関係者の前で冷静でいられる自信はなかった。
「それなら、少し付き合ってくれるか?」
和弘は千明の手をそっと引いた。
和弘に連れてこられたのは、老舗のテーラーだった。店内にはずらりとスーツが並んでおり、どれも品の良い自然な艶を放っていた。
「あのっ、こんなの悪いですっ……!」
千明はあれよあれよという間に、シルクブラウス、チャコールグレーのテーラードジャケットとスカートに身を包まれていた。
鏡の前で立ち尽くす千明に、和弘は不思議そうに首を傾げた。
「悪くないだろう。よく似合っている」
「えぇ。お客様は艶やかな黒髪をお持ちですから、チャコールグレーのジャケットがよく合いますよ」
テーラーのスタッフも和弘の意見に加勢する。
(そうじゃなくて……!)
「スーツは素晴らしいですけど、買っていただく謂われはないってことです! この間だってドレスを買っていただいたのに!」
「なんだそんなことか。気にするな。……これをもらおう」
「かしこまりました」
千明の主張はサラリとかわされ、あっという間に購入されてしまう。
店を出ると、和弘がスーツの入った袋を手渡してきた。千明はそれを受け取らず、和弘の腕をつかんだ。
「お支払いしますっ」
「記者会見で着てもらうスーツだ。俺のせいで出ることになったんだから、俺が払って当然だろ」
「でも……」
千明が戸惑っていると、和弘も眉を下げた。
「嫌でなければ受け取ってくれると嬉しい」
(どうしてそんな目をするの……?)
和弘は笑みを浮かべていたが、切なそうな、少し悲しそうな目をしていた。
断るのが申し訳なくなり、千明は小さく頭を下げて、そっと袋を受け取る。
「ありがとうございます。いただきます」
すると和弘はホッとしたように表情を和らげた。
「実は、ルミナークを社内ベンチャーとして立ち上げるための会議の日、新調したスーツを着ていたんだ。それで上手くいったから、君にも……と思ったんだ」
和弘が懐かしそうに目を細めた。
(そうだったんだ……)
「じゃあ、今度の記者会見は上手くいきますね! ううん、絶対成功させましょうね!」
「あぁ」
ここまでしてもらったのだ。不安よりも前向きな気持ちが千明の心を満たしていた。
「すごくやりやすかったよ。本番もよろしく」
「突然だったのに、良かったよ」
「やっぱり僕の見込みは正しかったねぇ」
技術部長も満足そうにうなずいていた。
「ありがとうございます。当日はよろしくお願いします」
千明が部長や見学者たちに頭を下げて見送ると、大会議室は一気に静寂に包まれた。
残っているのは千明と和弘だけだった。彼は千明に近づくと、勝ち気な表情で微笑んだ。
「流石だった。やはり知識が積み上がっている者に任せると安心感がある」
「ありがとうございます。まだ実感が湧かないんですけど、当日は頑張ります」
千明が胸の前でぎゅっと拳を握ると、和弘の手がその拳をそっと包みこんだ。
「不安か?」
千明を覗き込む和弘の目は、まっすぐに千明の瞳を射抜いた。
強がりも虚勢も見抜かれてしまいそうで、千明は正直にうなずいた。
「少し……。私は皆の前で話す仕事をしたことないので」
大勢の前で話すのを想像するだけでも緊張してしまう。さっきは社内の人たちしかいなかったが、本番は違う。メディア関係者の前で冷静でいられる自信はなかった。
「それなら、少し付き合ってくれるか?」
和弘は千明の手をそっと引いた。
和弘に連れてこられたのは、老舗のテーラーだった。店内にはずらりとスーツが並んでおり、どれも品の良い自然な艶を放っていた。
「あのっ、こんなの悪いですっ……!」
千明はあれよあれよという間に、シルクブラウス、チャコールグレーのテーラードジャケットとスカートに身を包まれていた。
鏡の前で立ち尽くす千明に、和弘は不思議そうに首を傾げた。
「悪くないだろう。よく似合っている」
「えぇ。お客様は艶やかな黒髪をお持ちですから、チャコールグレーのジャケットがよく合いますよ」
テーラーのスタッフも和弘の意見に加勢する。
(そうじゃなくて……!)
「スーツは素晴らしいですけど、買っていただく謂われはないってことです! この間だってドレスを買っていただいたのに!」
「なんだそんなことか。気にするな。……これをもらおう」
「かしこまりました」
千明の主張はサラリとかわされ、あっという間に購入されてしまう。
店を出ると、和弘がスーツの入った袋を手渡してきた。千明はそれを受け取らず、和弘の腕をつかんだ。
「お支払いしますっ」
「記者会見で着てもらうスーツだ。俺のせいで出ることになったんだから、俺が払って当然だろ」
「でも……」
千明が戸惑っていると、和弘も眉を下げた。
「嫌でなければ受け取ってくれると嬉しい」
(どうしてそんな目をするの……?)
和弘は笑みを浮かべていたが、切なそうな、少し悲しそうな目をしていた。
断るのが申し訳なくなり、千明は小さく頭を下げて、そっと袋を受け取る。
「ありがとうございます。いただきます」
すると和弘はホッとしたように表情を和らげた。
「実は、ルミナークを社内ベンチャーとして立ち上げるための会議の日、新調したスーツを着ていたんだ。それで上手くいったから、君にも……と思ったんだ」
和弘が懐かしそうに目を細めた。
(そうだったんだ……)
「じゃあ、今度の記者会見は上手くいきますね! ううん、絶対成功させましょうね!」
「あぁ」
ここまでしてもらったのだ。不安よりも前向きな気持ちが千明の心を満たしていた。