敏腕社長の密やかな溺愛
 千明を乗せた車は静かに走り出す。赤く染まった夕日が少し眩しい。
 チラリと横目で和弘を見ると、彼は真剣な眼差しで運転していた。

 整った横顔は、雑誌の表紙になりそうなほど様になっている。

(でも、この人……どこかで見たことあるような……?)

 こんな綺麗な人、忘れるはずもない。きっと春子と似ているから既視感があるのだと、千明は自分を納得させた。


「小野千明さん」
「は、はい」

 突然名前で呼ばれ、心臓がドキリと跳ねる。

「副業申請は?」
「へ? 会社の、ですか? してますけど……」

 突然妙なことを聞かれて正直に返す千明。頭のなかは疑問符でいっぱいだった。
 しかし和弘は満足そうに微笑んだ。

「それならいい。……この間の社内報、良かった」
「しゃない、ほう?」

 この人は何を言っているのだろう。千明は和弘をまじまじと見つめた。
 端正な顔立ちに、どこか影を落とすような瞳。整った眉と、薄く笑う口元が妙に印象的だ。 まるで、すべてを見透かしているような――。
 そして、気づいたのだ。

「あっ……! しゃ、社長!?」

 今話している相手が、勤務先の社長であることに。

 驚いて悲鳴のような声をあげると、和弘は顔をしかめた。
 
「なんだ、気づいていなかったのか? 顔を見て、名前を聞いたら気づくだろ」
「そっ、そんなこと言われてもっ……会社と関係のないところで急に会っても結びつきませんよ! 実物のお顔を拝見したのも初めてですし」
「俺はすぐに気づいた。母の『先生』が自分の会社の社員だと」
「ど、どうしてですか?」

(私はただの平社員よ。顔だって見たことないはずなのに……)

「ずっと見ていたから」

 小さく呟かれた声は横切っていったバイクの音にかき消された。

「え? 今なんて……」
「ははは、内緒」

 狼狽える千明とは反対に、和弘は不適な笑みを浮かべた。
 千明は思わず顔を背ける。

(え? 私、社長と話したことがあったっけ? 忘れていたんだとしたら、かなり失礼よね。ヤバイ……!)

 千明はぎゅっと手を握りしめ、会社での自分を思い返していた。
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