敏腕社長の密やかな溺愛
 課長と斎藤から少し距離を取れたことに安堵するも、和弘の近さに心臓が跳ねる。

「今日はお疲れ様」
「社長も」
 
 あまりに近い距離で話すから、千明の顔はだんだんと熱くなっていく。

「そういえば、会見を配信で見ていたゼルファリスというメーカーがシステムに興味を持ってくれたようだ」

 ゼルファリスはドイツの自動車メーカーだ。高級車が国内外で人気を博しており、千明もCMを目にしたことがある。

「すごい……大手メーカーじゃないですか!」
「あぁ。それで今度レセプションパーティーを開催するからと招待された」
「わぁ、素敵ですね」

 すると話を聞いていた斎藤が、いきなり和弘に歩み寄った。

「社長! 是非私もパーティーに同行させてくださいっ。広報からも一人同行者が必要ですよね! 今日の会見だって、本当は私のはずだったんですから」

 斎藤の目がギラギラと輝いている。しかし和弘は斎藤を一瞥すると目をつり上げた。

「君は何を言っているんだ? 連れて行くなら小野さん一択だ」
「どうしてっ……私の方が千明先輩より広報としては上です! CMやプロモーションの成果だってっ……!」

 斎藤は目に涙を溜めながら大声を張り上げた。周囲の人たちがこちらに注目し始める。
 けれど和弘はそれを気にもとめず、斎藤を睨みつけた。

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