敏腕社長の密やかな溺愛
「何をもって『上』だと断言しているんだ? 確かに君は、企画やプロモーションを手がけた数が多いんだろう。だが、技術的な内容に詳しいのは彼女の方だ。だからその知識が必要な時は、彼女を起用する。当然だろう」
「そんな……」

 和弘は泣き出す斎藤を気にもせず、課長の方へ目を向けた。

「広報二課は健全に機能していないようだ。マネジメント不足だ。それにハラスメントの報告が何件か上がっている。課の再編を検討するからそのつもりで」
「はっ? ちょ、ちょっと待ってください! どういうことですか!? 俺が間違ってるって言うんですか?」

 虚をつかれた課長が慌てて和弘の腕を掴む。だが、和弘はそれを振り払った。

「気づかれていないとでも? 数週間前、会議室で大声を張り上げて壁を殴っただろう。周囲にいた社員は皆、それを聞いていた。どんな内容だったか、まさか忘れたわけじゃないよな?」
「あ、あれはっ……こいつが生意気な事を言うからでっ……! 俺はこいつを正そうとしただけです。ほら、いろんな行事で積極的に動けるような、ルミナークにふさわしい人材にさせるためです。会社のためですよ!」

 顔を真っ赤にして必死に大声を上げる課長に、和弘の顔がどんどん険しくなる。
 千明が思わず和弘の腕にそっと触れると、彼は千明を見て一瞬だけ表情を和らげた。

「ルミナークは人々の安全を守るために立ち上げた会社だ。別に活発な者だけを集めている訳ではない。安全に妥協しない者が必要なんだ。そんなことも分からない奴が、会社のためなどと口にするな!」

 よく通る和弘の声が会場に響く。
 気がつくと、皆が和弘の言葉に耳を傾けていた。

「今日ここにいる大部分が、ルミナークの理念を理解していると信じている。だからこそ、ドライバーモニタリングシステムを世に出すことが出来たのだから。……だが、会社規模が大きくなるにつれて、皆が同じ方向を向くのが困難になってきたように思う。だからこそ、今日この懇親会を開催した。今日は部署や立場を超えた交流を楽しんでくれ!」

 和弘の言葉に自然と拍手が湧き上がる。
 会場が盛り上がる中、いつの間にか課長と斎藤は姿を消していた。

 

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