敏腕社長の密やかな溺愛
8.真実
 懇親会がお開きになると、千明は和弘を探した。皆がそれぞれ二次会へと向かう中、帰ろうとしている彼を見つけて、「和弘さん!」と声をかけた。

 和弘は千明の方を向くと、ふっと微笑んだ。

「今日は本当にお疲れ。最後まで巻き込んでしまったな」
「いいえ! 元はといえば、私が課長たちとギクシャクしたせいです。申し訳ありません。それに、ありがとうございました」
「君は悪くない。君に肩入れしすぎないようにしていたら、対応が遅れてしまったんだ。俺は君のことを……いや、何でもない」

 彼の言葉に心臓がギュッと締め付けられる。

(分かってる。私が春子さんの先生だからってことよね……勘違いしちゃ駄目よ)

 それでも、千明を見つめる彼の表情があまりに甘く、切なく見えて、千明は思わず口を開いてしまった。

「好きです」

(しまった。こんな事を言うはずじゃ……)

 慌てて口を押さえても、もう遅い。恐る恐る和弘を見ると、彼は驚いたような、悲しそうな顔をしていた。

「あのっ、今のは……」
「本当か?」
「え? えっと……はい」

 千明が諦めて素直にうなずくと、彼は少しだけ口の端をあげた。

「俺も君のことが好きだ。……だが、きっと君は俺のことを嫌いになる」
「え? そんなわけないです!」

 和弘の思わぬ言葉に反射的に答えても、彼は首を振るばかりだった。

(どうしてそんな悲しそうな顔をするの……?)

 彼はしばらく俯いたまま黙っていたが、ふと顔を上げて千明に力なく笑いかけた。

「少し、歩かないか?」
「……はい」


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