敏腕社長の密やかな溺愛
「君は俺に気づいていないようだったし、遠くから見守るつもりだった……。それだけで十分だった。君が幸せでいてくれれば満足だった。だが、俺は君にまた迷惑をかけた。余計な異動で」
「それは和弘さんのせいでは」
「人事を部課長に任せていた俺の責任だ。それに広報二課の暴走を見抜けなかった」

(違う……。和弘さんは悪くないっ)

 どうしたらこの気持ちが伝わるのだろう。千明の手には力が込められていた。

「違います! あれは……後遺症のことを言い出せなかった私が悪いんです。怖かったんです。皆に同情されたり疑われたりするのが。でも中途半端に隠したせいで、皆から信頼が得られなかったんです。……だからもう隠すのはやめます。また一から課の皆さんと関係を築きます!」

 千明が明るい声で宣言すると、和弘が少しだけ目を丸くして「君は、いつも強いな」と呟いた。

「強くなれたのは、和弘さんのおかげですよ。私のことをちゃんと見て、胸を張れって言ってくれたから。だから……だから好きになったんです。嫌いになんて、なるはずないです」

 そう言い終わる前に、千明は和弘の腕の中にいた。目に溜まっていた涙が、彼のシャツに吸い込まれていく。

「千明、君が好きだ」
「はい。私も和弘さんが大好きです」

 そうして二人はそっと口づけを交わしたのだった。


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