運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
「……実はあの日、来客があり、ある事件が起きたんだ」
「事件って?」
「ワインをこぼしたメイドに激昂した客人が、そのメイドを庭へ引きずり出すという、考えられない愚行だ」
「なんてひどい……」
「騒ぎはすぐに収まらず、塔の見張りの兵士たちも持ち場を離れた。しかし、それもほんの短い時間だったのに、その後、兵士が戻ると、アドリアが倒れていた」

 アレクは目を伏せた。それを思い出すたびに、怒り、戸惑い、悲しみ……さまざまな感情が波打つのだろう。

「アドリアさんがその場で誰かともめたとは考えにくいんですね?」
「そもそも、アドリアに塔への出入りを許したものはいない」
「じゃあ、婚約者の立場を利用して塔に近づいたという話は?」
「あれは、陛下の命で広めたものだ。アドリアはイザベラに興味を持っていた。あの鏡を壊すために塔へ侵入しようとして呪い殺された。……そういうことにしておけば、あの客人は油断するだろう……と」

 アレクは淡々と話しているようで、その奥に静かな怒りをにじませていた。愛のない婚約だったとしても、彼はアドリアの死に大きな責任を感じている。

 彼女の死の真実はどこにあるのか……。セレナもじわりと強張っていく。

「陛下は……いいえ、アレクもその客人を疑ってるの?」
「アドリアの死に、イザベラは関係していない。そう考えているのは、確かだ」
「その客人って?」
「いや……まだ不確定なことは言えない」

 彼はわずかに視線をそらしてはぐらかしたが、その仕草が、何よりも雄弁に物語っているように見えた。
< 136 / 177 >

この作品をシェア

pagetop