運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい
 ぽつりとこぼしたあと、セレナはペン先で机を軽く叩いた。思考の海に沈みかけたそのとき、背後でどさりと重い音がした。

「も、申し訳ありませんっ!」

 同時に叫ぶふたりの声が重なった。

 書物を運んできたメイドが、掃除をするメイドとぶつかり、腕にかかえていた本を落としてしまったようだ。

「どうしましょう。大切な書物ですのに……」
「私がうっかりしていたばかりに……」

 床一面に散らばる本の前にあわててかがみ込むメイドたちは泣き出しそうな顔をしている。最近、雇われたばかりのメイドだろう。アレクの結婚に伴い、多くのメイドが入ってきている話は、エマから聞いていた。

「大丈夫よ。そんなにあわてなくてもいいわ」

 セレナが声をかけると、メイドたちは顔を真っ赤にして頭を下げた。震える指先で散らばった本を集める姿に、思わず胸が痛む。

「落ち着いて。ほら、これは無事よ」

 セレナが一冊の古びた本を拾い上げた瞬間、ページの隙間から、薄い羊皮紙がするりと落ちた。それは光を受けてひらひらと回転し、セレナの足先に乗った。

「……何、これ?」

 それは一見、何も書かれていないように見えたが、窓から差し込む日差しに透かすと、部分的にテカテカと光って見える。

「セレナ様っ、おけがはございませんか?」

 物音に気づいたエマが、部屋に駆けつけてくる。

「エマ、私は大丈夫よ。それより、見て。何か書いてあるみたい」

 今にもメイドたちを叱りつけそうなエマの気をそらし、セレナは羊皮紙を見せた。

「……あら、本当に。文字……でしょうか?」
「そう見えるわよね。……もしかしたら、油で書かれたものかもしれないわ」
「油、ですか?」
「ええ。たとえば……、灯りに使われていたランプの油とか。それなら、乾いたあとは何も書いてないように見えるかも」
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