秘密の多い後輩くんに愛されています
「ま、舞花先輩がどうしてここに。帰ったんじゃ……」
「あー……スマホを忘れちゃって」
持っていたスマホを胸の前で左右に振ると清水さんは消え入るような声で「そうだったんですね……」と苦笑いを浮かべた。
「今の話、聞いてましたか?」
「えっと」
ここは素直に答えるべきか、それとも今後のことを考えて聞いてないふりをするべきなのか。
どちらを選択するべきなのか迷う私の態度を見て、清水さんは言葉を発するよりも先に深々と頭を下げた。
「……すみませんでした」
「いや、私も盗み聞きみたいになっちゃってごめんね」
盗み聞きみたいっていうか、完全に盗み聞きなんだけど。
彼女の胸の内を知って傷つかなかったといえば嘘になる。
だけど、謝ってほしいわけでもない。
「私、侑里を待たせてるからそろそろ行くね。清水さんもあまり遅くならないように」
「はい。失礼します」
清水さんがデスクに戻るタイミングで、彼女と仲の良い同期ふたりがバツの悪そうな顔で給湯室から出てくる。
「お疲れさま」
「「お、お疲れさまです」」
彼女たちは軽い会釈のあと、この場から足早に立ち去った。
……上田くんにも声をかけてから帰るべきだよね。
給湯室に顔を出すと、そこにはいつもと変わらない様子でコーヒーを入れる上田くんの姿があった。
「あの、」
「お疲れさまです」
何事もなかったかのように私の横を通る上田くんに私は一言「お疲れさま」と返すのが精一杯だった。