秘密の多い後輩くんに愛されています
「はぁ? あの女、そんなこと言ってたの」
給湯室で偶然、耳にしてしまった話をすると侑里は運ばれてきたばかりのジョッキをテーブルに叩きつけた。
まだ泡が消える前のビールはジョッキの中でゆらゆらと波打つ。
ここは侑里の行きたがっていた和風居酒屋だ。
店内の壁には手書きのメニューが隙間なく貼られていて、色あせた紙からは歴史を感じる。
運ばれてきたお通しのポテトサラダをつまむと「よく食べられるわね⁉」と呆れられた。
「美味しそうだったから早く食べたくて」
「それは〜〜わかるけど!」
「侑里もひとまず食べたら?」
「それもそうね。……いただきます」
ポテトサラダを口に運んだ瞬間、侑里の眉間にあったシワが取れる。
「ねっ、美味しいでしょ?」
「美味しい……。で? 好き勝手言われてもちろん言い返したのよね?」
せっかく取れた眉間のシワが一分も経たないうちに復活。
「言い返してはない……かな」
「はぁ、私がその場にいたらガツンと言ってやったのに」
その言葉を聞いて、あの場に侑里がいなくてよかったと心の底から思った。
大切な給湯室を戦場にするわけにはいかない。……というのは半分冗談で、再三にわたって注意をしてくれていた侑里の言葉を軽く受け流していた私にも責任がある。
いい人アピールのつもりはなかったが、彼女たちのいい先輩ではありたかった。
そんな気持ちが見透かされていたのかもしれない。
つまりは、自業自得ってわけで……。