あなたと私を繋ぐ5分
 口下手だという自覚はあった。話すのは得意ではない。自分の感情は文章にした方が上手く伝えられる子どもだった。

 思春期になり、ありがたいことにすくすくと背が伸びた。
 母の一族が目鼻立ちのくっきりした家系だったこともあり、その血を色濃く継いだらしい自分は、気づけば人目をひく容貌を備えていた。
 最初はクラスメイト、やがて学年の違う女子も含めて、好意を寄せられることが増えた。それがまた、口下手に拍車をかけた。

 持ち物を褒めただけで、「鷺沼はあの子が好きなのか」と噂された。噂されるだけではなく、真偽を確かめようとする女子に囲まれることも多々あった。
 そんなつもりはない。好きだなんて思ったこともない。

 ありのままを伝えれば、今度はその褒めた子に泣かれた。「お世辞なら言わないで欲しい」などと詰られて。
 正直、わけがわからなかった。
 ただ感想を伝えただけで、そんなふうに見られることも、何でもかんでも恋愛の好き嫌いに持ち込む女子も。

 やがて面倒になり、極力会話をしないという道を選んだ。
 改善しようという意志が見られないことをどうか咎めないで欲しい。当時は本当に辛かったのだ。
 自分のまわりで、意図していない噂が広まり、責められる。わけがわからなくて。

 告白されることは多かった。けれどすべて断っていた。
 好きだと言ってくるこの人たちが、心の中で何を考えているのかわからなかったから、好きになんて、なれるわけがなかった。


 変化が現れたのは、社会人になってからだった。

 彼女は同じ部署の先輩だった。さばさばした姉御肌な性格で、部下からは慕われ、上司からは頼られていた。
 他人との壁を作りがちな自分にも明るく接してくれて、仕事の悩みを相談するうちに気づけば距離が縮まっていた。
 相手から信頼されていると思っていたし、鷺沼自身も全面的に彼女を信用していた。

 口下手な自分の言いたいことを理解してフォローしてくれる彼女を好きだと思うのにそう時間はかからず、気づけば彼女からの「付き合う?」という一言をきっかけに、付き合うことになっていた。
 今思えば、全く頼り甲斐もなく、好意すらまともに伝えていない男と付き合ってくれたなんて、ありがたい話だ。
 知らず知らずのうちに彼女に甘えていたのだろう。
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