あなたと私を繋ぐ5分
 翌日、定時後に彼女を休憩室へと呼び出した。

 しかしまさか、告白されるところを目撃されるとは、予想外だった。さんざん冷酷だと言われていることはわかっているのに、美咲にそう思われたくない、と咄嗟に言い訳までしてしまったことも。

 それでも彼女には、自分のコンプレックスまで躊躇いなく話せてしまった。
 口下手なはずの自分はどこへ行ったのだろう、と不思議に感じるくらい、彼女は話しやすかった。

 そして彼女もまた、元恋人からの言葉を抱えて過ごしているのだ、ということも知った。
 と同時に、彼女の心に今も残っている元恋人を羨ましく思う。
 それだけ、深く愛していたのだろうと思うと、胸の奥が痛んだ。


 鷺沼はちらりと腕時計に目を走らせる。時刻は二十時をまわったところだ。
 自宅までは電車で一本、三十分ほどだ。
 なんとか間に合いそうだとほっとする反面、急がないと話す内容をまとめる時間が足りない。
 喋るのが苦手だからこそ、出来事をきちんと思い返して順序だてておかないと、上手く話せないのだ。

 帰宅したマンションの室内は、ひどい暑さに顔を顰めるほどではなくなっていたものの、じっとりした湿気に一瞬で絡め取られる。

 窓を開け空気を入れ替えたところで、着替える間も惜しく、簡単にメモを取った薄い無地のノートを読み返した。
 今日一日を思い返す。

 一番印象に――自分の心をあたためてくれた出来事はどれだっただろう。
 そう考えて、悩む必要もないな、と思い直した。
 自然と口から笑みが溢れる。ここ二日間で手にした幸せのかけらは、親切で誠実な彼女との出会いと会話だ。

 ただそのまま話すわけにはいかない。これまでの配信内容のテンションとあまりに変わってしまう。
 今まで、恋愛を匂わせるような話は一切してこなかった。自分の心が動かないのだから当たり前だ。

 異性とのやりとりに浮かれた話は、きっとこの五分にはそぐわない。
 それでも彼女の姿が頭の中から消えることはない。どの程度だったら話して良いだろうか、と迷いながら鷺沼はスマホを操作し始めた。
 赤い配信ボタンを押せば、あっさりと鷺沼の声が、世界中に発信される。
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