あなたと私を繋ぐ5分
それから、鷺沼は社内でいつも美咲の姿を探すようになった。
見かけたら躊躇いなく話しかけに行った。彼女の視界に映りたかった。
なにより言葉を交わすたびに、美咲は鷺沼に幸せのかけらを与えてくれた。
自分でなんとか色付けようとしていた日常が、美咲のことを思うと勝手に色鮮やかな一日に変わる。
確かに、元カノと付き合っていた頃は、こんなふうに日常が色づくなんて、想像もしていなかった。
たった一言交わす挨拶で心が潤う。だから、会話ができた日は、かけらどころではない、幸せそのものだ。
逆に忙しくて彼女と言葉を交わせない日は、物足りなくて落ち込んだ。
自分の現金さに苦笑しそうになることもあったけれど、これが恋か、とすとんと納得した。
ある日、時々訪れる蕎麦屋で美咲を見かけた。
昼時だったせいか、幸運なことに空席が少なかった。
「隣いい?」と聞けば頷いてもらえてほっとする。
考えてみれば、食事の場を共にするのは初めてだった。
蕎麦を食べる彼女の気配を感じながら、心臓がばくばくと音を立てている。
じっと見たいけれど、横並びで並んでまじまじと見るのは失礼だろうと、自重した。
逆に自分の食べ方は汚くないだろうか、なんて接待でも気にしたことのない不安が過った。
さりげなく、食べ終わる彼女を待って、一緒に会社に戻る。
彼女の考え方が好ましくて、その理由を訊ねたときだった。
「そういえば、こう考えられるようになったのは、ポッドキャストのおかげもあるかもしれないです」
「え?」
ぽつりと話し始めた彼女を見つめる。
「週に三回、日常で出会った良かったことを、幸せのかけらとして語ってくれる番組があるんです。私、この番組に出会ってから、自分でも幸せのかけら集めをしていて。といっても、ちょっといいなって思ったことをノートにメモしておくくらいなんですけど。でも、毎日『何か書けることないかな』って探して生活しているだけで、ずいぶんポジティブになれました。あと、お話されているのが、潮騒さんっていう男性の方なんですけど、低くてとっても耳障りの良い声なんですよ! 私はその人の考え方にも影響を受けましたけど、ただ流すだけでもおすすめです。多分、良く眠れると思います」
「……へえ」
なんとか返事ができただけで、十分だと思うべきなのだろうか。
最初はまさか、と思ったけれど、美咲の口から語られるポッドキャストの内容は、どう考えても自分が配信している番組のことで。
『潮騒』なんて名前まで出たら、人違いだとごまかすこともできない。
しかし彼女はまさか、配信している本人が目の前にいるとは露ほども思っていないようだった。当たり前だ。配信なんて全く興味なさそうな人格を作っているのは、鷺沼自身なのだから。
見かけたら躊躇いなく話しかけに行った。彼女の視界に映りたかった。
なにより言葉を交わすたびに、美咲は鷺沼に幸せのかけらを与えてくれた。
自分でなんとか色付けようとしていた日常が、美咲のことを思うと勝手に色鮮やかな一日に変わる。
確かに、元カノと付き合っていた頃は、こんなふうに日常が色づくなんて、想像もしていなかった。
たった一言交わす挨拶で心が潤う。だから、会話ができた日は、かけらどころではない、幸せそのものだ。
逆に忙しくて彼女と言葉を交わせない日は、物足りなくて落ち込んだ。
自分の現金さに苦笑しそうになることもあったけれど、これが恋か、とすとんと納得した。
ある日、時々訪れる蕎麦屋で美咲を見かけた。
昼時だったせいか、幸運なことに空席が少なかった。
「隣いい?」と聞けば頷いてもらえてほっとする。
考えてみれば、食事の場を共にするのは初めてだった。
蕎麦を食べる彼女の気配を感じながら、心臓がばくばくと音を立てている。
じっと見たいけれど、横並びで並んでまじまじと見るのは失礼だろうと、自重した。
逆に自分の食べ方は汚くないだろうか、なんて接待でも気にしたことのない不安が過った。
さりげなく、食べ終わる彼女を待って、一緒に会社に戻る。
彼女の考え方が好ましくて、その理由を訊ねたときだった。
「そういえば、こう考えられるようになったのは、ポッドキャストのおかげもあるかもしれないです」
「え?」
ぽつりと話し始めた彼女を見つめる。
「週に三回、日常で出会った良かったことを、幸せのかけらとして語ってくれる番組があるんです。私、この番組に出会ってから、自分でも幸せのかけら集めをしていて。といっても、ちょっといいなって思ったことをノートにメモしておくくらいなんですけど。でも、毎日『何か書けることないかな』って探して生活しているだけで、ずいぶんポジティブになれました。あと、お話されているのが、潮騒さんっていう男性の方なんですけど、低くてとっても耳障りの良い声なんですよ! 私はその人の考え方にも影響を受けましたけど、ただ流すだけでもおすすめです。多分、良く眠れると思います」
「……へえ」
なんとか返事ができただけで、十分だと思うべきなのだろうか。
最初はまさか、と思ったけれど、美咲の口から語られるポッドキャストの内容は、どう考えても自分が配信している番組のことで。
『潮騒』なんて名前まで出たら、人違いだとごまかすこともできない。
しかし彼女はまさか、配信している本人が目の前にいるとは露ほども思っていないようだった。当たり前だ。配信なんて全く興味なさそうな人格を作っているのは、鷺沼自身なのだから。