スパダリ御曹司は政略妻とベビーに一途愛を証明する
庭の向こうで、元気に走っていた小さな男の子が勢いよく転んだ。
思わず駆け寄ろうとした私よりも早く、朔也さんが動いた。
「大丈夫? ……あ、血が出てるな」
彼はひざまずき、取り出したハンカチで男の子の膝をそっと押さえながら、落ち着いた声で尋ねる。
「お母さんやお父さんは、どこ?」
「……あっち」
「じゃあ、一緒に行こうか」
「知らない人についていっちゃダメって言われてる」
「そうか。ちゃんと約束を守っているんだな。えらいぞ」
ハハ、と笑う朔也さんの声を聞いて、不思議と胸がぎゅっと詰まった。
子どもの前で、こんなふうに笑う人なんだ……。
それはとてもうれしい発見だった。先ほどまでとても遠い人だと感じていたのに、妙な親近感が湧く。緊張も一気にほどけた。
私も朔也さんの隣まで行き、男の子の目線までしゃがみ込んでゆっくりと声をかけた。
「もしよかったら、君のお名前とパパとママがいそうな方向を教えてくれる? 私が捜して呼んでくるね。それならいいでしょう?」
男の子は少しだけ悩んで、右の方を指さす。
「ゆうた。パパとママはあっち」
「そう、ありがとう。じゃあ、待っていてね」
そう言った瞬間、ちょうど指さした方向から慌てた様子の若い夫婦が現れた。
「ゆうた!」
「ママ! パパー!」
走ってきた母親に抱きつく男の子を見守っていたら、父親が私たちに頭を下げた。
「ありがとうございます。ハンカチ、汚してしまって……。弁償します」
「いえ、お気遣いなく。それよりも後で消毒をしてあげてください」
「はい。申し訳ありませんでした。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんてとんでもない。ゆうたくんは、転んでも泣かなかったんだよな。強かった」
朔也さんのその言葉に、ゆうたくんは胸を張って、鼻の穴をぷくっと膨らませた。
夫婦は安堵したように微笑み、深く頭を下げて立ち去っていく。