玄関を開けたら、血まみれの男がいました

想いと未来

 大貫は病院で手当てを受けた。頬に切り傷を負ったが、幸いにも深い傷ではないらしい。
 治療を終えた大貫と私は、病院の時間外受付の前で長椅子に座り、お会計を待っていた。
「大丈夫?」
 頬に大きなガーゼを貼られた大貫が痛々しい。
 でも大貫はなんともなさそうな顔をして、私を横目で見た。
「浅野さんこそ」
「私は大丈夫だよ、無傷だもん。私は大貫くんの付き添いみたいなものだし」
 むしろ、無傷すぎて申し訳なくなる。
 あのヤクザ男は明確に私を狙っていた。ということは、私と関わらなければ、大貫はこんな怪我をする必要もなかったということだ。
「ごめんね、大貫くん」
「え、なに?」
「なにって、私のせいで怪我したじゃん。だから、ごめん」
「いや違うでしょ。元はと言えば俺が浅野さんちに空き巣に入ったわけだし、俺が加害者、浅野さんは被害者」
 そう言った大貫と私の頭上から、「いや」と否定する声が降ってくる。
「お二人はどちらも被害者ですよ」
 そう発言したのは、いつぞやの刑事だった。今回の傷害事件について話を聞きに来たのだろう。私たちに向かって軽く頭を下げる。
「大貫さんを刺し、大貫さんに空き巣を強要し、今回また大貫さんに怪我をさせたあの男、山下と言いますが、現行犯で逮捕しました」
 逮捕の言葉に、私の胸のつかえが取れる。安全が担保されているだけで、こうも身体が軽くなるのか。
 だけど。
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