完璧御曹司の執愛から逃げ、推しのアイドルと結ばれる方法
 五月蝿いくらいのエンジン音がなくなると、波の音しかしなくて静寂に耐えられそうにない。

「玲さん、船も運転できるんだね」
 私は何でもできる婚約者の男を素直に褒めてみることにした。
 
「簡単だよ。凛音もやってみる?」
 玲さんが私の手をとるが、私はやってみた事のない事に挑戦して失敗するのが怖い。

「いや、私は船舶免許も持ってないし⋯⋯」
「誰もいないから、大丈夫。何事も挑戦してごらん? 凛音の初めてに立ち会いたいんだ」
 玲さんの声は楽しそうに弾んでいた。
 操縦席に私を座らせ、玲さんが後ろから私の手を握ってくる。たまに人間に見えないくらい完璧な彼も触れると温かい。

< 62 / 320 >

この作品をシェア

pagetop