【1話だけ】皇子妃は空気が読めるはずなのに、なぜか夫の気持ちだけはわからない

 しょうがない子ねえ、と笑って肩をすくめる。
 そこには、ナツメを強く非難する空気は含まれていなかった。
 にも拘らず、ナツメの胸にぐっさりと刺さる。

 その話を聞いたときには、ナツメなりに農民の心配をしたはずだった。
 それでも、自分ではない家族の誰かが対処する問題だと思ってしまった。
 それゆえ、今こうして姉から言われるまで頭から抜け落ちていたのだ。

(自分には何もできないからって、私ってばあんまりだわ……)

「現地へ行って見てくるから、数日出るわ」
「アシビお兄様も?」

 アシビとは、第二王子のことである。

「途中までは一緒だけど、途中から別行動の予定。アシビは水源地を見に行くって」
「ふーん。気をつけて行ってきてね」
「ええ。じゃあ、ナツメもお父様のところに行ってね」

 エンジュが手をひらひらと振って消えてしまうと、ナツメはため息を吐いた。

(相変わらず、みんな忙しいんだなあ)

 現・シンナ国王夫妻には、子どもが4人いる。
 長子のエンジュと三番目のアシビは、これから農地へ出向く。
 二番目のリョウダ第一王子も、現在活動が活発になっている火山の調査中で、不在にしている。
 末子のナツメだけが出来ることもなく、こうして王宮でダラダラしているのだった。

 もう16になるというのに国の役に立てていないことを、そうは見えないながらも、実はこっそりと気にしていた。
 しかし、それもナツメにはどうしようもないことだった。
 ナツメにはそのためのスキルがないのだから。

 神が作ったと言い伝えられている島を領土としているシンナ王国。
 王族はその神の子孫と言い伝えられている。
 真偽のほどは、それこそ神のみぞ知るところ。

 ただ、確かにシンナ王族の者たちは人智を超えた特殊なスキルを有していた。
 どのようなスキルかは個々によって異なる。
 ナツメの兄姉たちの中でもだ。

 ナツメにもまたスキルがあった。
 国のために何の役にも立たないスキルではあるものの……
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