【1話だけ】皇子妃は空気が読めるはずなのに、なぜか夫の気持ちだけはわからない
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「お父様、ナツメです。エンジュお姉様から御用と伺ったのですが」
「ああ。もっと近くに来なさい」
父である国王の執務室を奥へと進んだ。
「つい先ほど、港から知らせが入った。ソルダシア帝国の船が入港したそうだ」
「それはまた突然ですね。何の用があるんでしょうか?」
「知らんよ。午後には特使が王宮に到着する見込みだそうだ。ナツメも面会の場に同席すること」
「また私が?」
「ナツメしかいないだろう」
「同席して役に立ったことなんてないのに……」
姉や兄たちが出掛けているから、という理由でナツメが指名されたのではない。
外国からの要人との面会には、こうしていつもナツメが呼ばれる。
あちらにしてみれば、なぜ? と思うはず。
王妃や、エンジュ第一王女、リョウダ第一王子ならまだしも、どうして末の王女が? と困惑ものだろう。
ナツメにしたって、居たくて居るわけでは決してない。
向こうは国王に用があるだけで、ナツメに期待していることなど何もない。
だからナツメにできることなど、ひとつもないのだ。
しかし、国王から出席するよう命じられてしまったら、どうすることもできない。
はじめの挨拶でひと言ふた言発したきり、押し黙ってじっと座るのみだ。
扇でアクビを隠しながら。
「今日こそスキルが役に立つかもしれないじゃないか。特使を迎える支度をしておきなさい」
「……はーい」
父は、毎度役に立たない自分のことを諦めないでくれているのだ。
そのことを誰よりも分かってしまうから、ナツメは余計にツラかった。
滅多にないこととはいえ、帝国からの使者と面会するのはこれが初めてではない。
だから、帝国に関するひと通りの知識は頭に入っていた。
歴史、文化、マナー、特産品、主要な王族メンバー……
(それでも一応、復習はしておこう。万一、失礼があったらいけないから。もっともそんな準備をしたところで、私のスキル同様に役に立ったことはないんだけどね)
こうして無駄を重ねていることに、つい自嘲的に笑ってしまうのであった。