【1話だけ】皇子妃は空気が読めるはずなのに、なぜか夫の気持ちだけはわからない

 それでも素直に納得することができない様子なのを見て、父はナツメの両肩を掴み、両のまなこを覗きこんだ。

「さらに、だ。そのスキルがあれば、帝国の皇子妃としても上手くやれるに違いない!」
「でも、どうしてシンナの王女でないといけないのですか? 納得できません」
「それは、このあとの夕食会で特使に聞くことにしよう。はっきりとしたことを聞けなければ、スキルを使ってソルダシアの情報を集めてもいい」
「ぜひそうしてください」

 ナツメは仏頂面で答えた。

「ナツメ、」

 国王は、穏やかに娘の名を呼びかけた。

「それでもそなたが嫁ぐことは決定だ」
「断るっていう選択肢はないんですか⁉︎」
「その選択は、下手をするとこの国が消滅することになる。シンナには、帝国に逆らえるだけの武力などない」
「ですが、お父様たちが全力でスキルを使えば! そうですよ、お父様が竜巻を呼び、リョウダお兄様は火を起こし、そしてアシビお兄様が大雨を降らせれば、私ひとりくらい守れるのでは……」
「ナツメ‼︎」

 滅多に聞くことのない父の怒声に、ナツメは身構えた。

「このスキルは国を豊かにし、民を護るために使うものだ。たとえ他国の者であっても害するのに使うものじゃない」

 そんなことはナツメにも分かっていた。
 ナツメにしたって、そのようなことを本気で望んでいるわけではない。
 どうにか大陸に嫁ぐことを回避したくて、でたらめに喚いただけなのだ。
 もう押し黙るしかなかった。

「父さんは特使をもてなす夕食会に出てくるよ。ナツメは自分の部屋でゆっくりしていなさい」
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