【1話だけ】皇子妃は空気が読めるはずなのに、なぜか夫の気持ちだけはわからない

◻︎

 夕食会にナツメの姿はなく、王妃であるナツメの母が参加していた。
 しかし、これもいつものこと。
 ナツメは、お酒が飲めないことを理由に辞退させてもらっている。
 実際は話すこともなく苦痛だからだが。
 反対に王妃は、海外の客人とは懇親の場でのみ交流することにしている。

 王妃は会の直前に、国王からソルダシア帝国の要求内容を聞かされ、卒倒しそうになった。
 が、どうにか持ち直し、そつのない笑顔で特使と談笑する。

 その間、ナツメは自分の部屋に閉じ籠っていた。
 布団をカブり、息を潜めるその様子はまるで隠れんぼだ。
 見つかったら即座にソルダシア帝国に連れていかれる、とでも思っているかのようだった。

 会がお開きになってしばらくすると、父はナツメの部屋を訪れ、静かに声をかけた。

「まだ起きているか?」
「ショックすぎて寝付けません」

 父は音を立てないようにして入ってきた。

「特使には、今夜は王宮に泊まってもらうことにした。明日、帝国に戻ることになる」
「私もそのとき一緒に?」
「まさか。まずは、返信を持って帰ってもらうだけだよ」

 ほっとしていいのかどうか分からない。
 執行猶予をもらっただけのこと。
 帝国行きは決定していて、あとはいつ出発するかだけの問題に過ぎないのだ。

「シンナの王女を娶りたい理由を聞いてみたよ」

 ナツメは布団から顔を出し、父を見つめる。

「太平の国シンナの王女をぜひに、ということだった」
「そんな理由では……」

 やはり納得できるはずがなかった。

「夕食会が終わってすぐ、全身全霊をかけてスキルを使ってみたよ」
「何か分かりましたか?」
「最近のことのようだが、ラナヴェル王国がソルダシア帝国に併合されて、どうもゴタゴタしているな」
「ラナヴェル王国が?」

(ラナヴェル王国って、以前はシンナにも年に1度使節団が来ていた……)

 しかし、思い返してみると、ここ数年はそれが途絶えている。
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